122 / 139
Ⅴ 由佳の選択
13 妊娠してしまった
しおりを挟む
由佳から妻の美智子にメールがあった。
「私、妊娠してしまった」
渡米して一年もたっていない。大学に入ってまだ半年だ。
驚いた美智子が渡米して会いに行った。
私はそれほど心配していなかった。春にでも淳一君が由佳に会いに行き、それでミスかどうか知らんが、由佳を妊娠させてしまったのだろう。それならそれでいいと思っていた。
しかし妻の電話を聞いて仰天した。お腹の子は淳一君の子供ではないというのだ。
数日後、妻が肩を落として帰国してきた。
「私、あの子に会って、すぐに大学をやめて帰国しなさいと言ったのよ」
「君の電話では妊娠四か月だとか」
「まだ四か月にはなっていないと思う。でも淳一さんにどう説明するの?彼と結婚するつもりじゃなかったのって言うと、彼はもう自分がいなくてもやっていける。新しい女性を探せばいいなんて言うから、思わずほっぺたを叩いてしまったわ。今まであの子に手を出したことなんかなかったのに」
そこで口をつぐみ、ため息をついた。
「部屋は同棲している風でもなかった。今の彼は由佳を全面的に頼っているから、自分がいなくなったらだめになってしまう。だから帰国はできないって」
「どんなやつなんだ?」
男性はホセなんとか。同じ大学で陸上をやっている選手で、貧しいが才能もあり由佳のサポートで記録を伸ばしているという。
「まだ大学に入ったとこだろう?これからどうするつもりなんだ」
「大学内に学生と子供が一緒に暮らせる施設があるそうよ」
「じゃあもう、その男と結婚して子供も産むつもりなのか?」
「今度のことはあの子の意志で、淳一さんもいつか分かってくれるって言ってたわ。何を勝手なことってと思った。やっぱりアメリカなんかに行かせたのが間違いね。あの子泣いて謝ると思っていたけど、私の前では涙を見せなかった」
淳一君が、由佳と連絡がつかないと言ってきたので、家に来てもらった。
こんな事を先延ばしにはできない。妻が由佳から聞いたことを婉曲に話した。
由佳に恋人ができたこと。八月には帰国しない。淳一君には悪いと思っている。
それを聞いて彼は顔色を変えた。
「すぐにでもアメリカへ行って、彼女に事情を聞いてきます。直接聞かないと納得できない」
当然だろうな。
仕方なく私が全部包み隠さず話すことにした。
由佳が妊娠していること。相手の男性は同じ大学の陸上選手で由佳がサポートしている。
彼は彼女がいないとだめになる。子供を育てながら大学を卒業する計画だということも。
そして淳一君なら分かってくれるとも。
淳一君には感謝しているが、日本には帰る気はないという事も。
話しながら情けなくなってきた。
私が甘やかしたせいだろうか。
由佳と淳一君が一緒になることを誰よりも楽しみにしていたのに。
彼は手を握りしめ黙って聞いていた。
長い沈黙の後、ふり絞るような声で言った。
「僕の責任ですね。彼女の心をつなぎ止めることができなかった」
「君には本当に申し訳ない。父親として謝るよ」
「僕のために、みなさんに、あんなに助けてもらって、本当に俺、・・・」
そこで何も言えなくなり、走るように家を出た。
私と妻は言葉なく見送った。
愛し合う二人が助け合ってオリンピック出場の夢をかなえたんじゃなかったのか?
栄光を勝ち取った代償が二人の別れなのか?
何でこんなことになってしまったんだ。
「私、妊娠してしまった」
渡米して一年もたっていない。大学に入ってまだ半年だ。
驚いた美智子が渡米して会いに行った。
私はそれほど心配していなかった。春にでも淳一君が由佳に会いに行き、それでミスかどうか知らんが、由佳を妊娠させてしまったのだろう。それならそれでいいと思っていた。
しかし妻の電話を聞いて仰天した。お腹の子は淳一君の子供ではないというのだ。
数日後、妻が肩を落として帰国してきた。
「私、あの子に会って、すぐに大学をやめて帰国しなさいと言ったのよ」
「君の電話では妊娠四か月だとか」
「まだ四か月にはなっていないと思う。でも淳一さんにどう説明するの?彼と結婚するつもりじゃなかったのって言うと、彼はもう自分がいなくてもやっていける。新しい女性を探せばいいなんて言うから、思わずほっぺたを叩いてしまったわ。今まであの子に手を出したことなんかなかったのに」
そこで口をつぐみ、ため息をついた。
「部屋は同棲している風でもなかった。今の彼は由佳を全面的に頼っているから、自分がいなくなったらだめになってしまう。だから帰国はできないって」
「どんなやつなんだ?」
男性はホセなんとか。同じ大学で陸上をやっている選手で、貧しいが才能もあり由佳のサポートで記録を伸ばしているという。
「まだ大学に入ったとこだろう?これからどうするつもりなんだ」
「大学内に学生と子供が一緒に暮らせる施設があるそうよ」
「じゃあもう、その男と結婚して子供も産むつもりなのか?」
「今度のことはあの子の意志で、淳一さんもいつか分かってくれるって言ってたわ。何を勝手なことってと思った。やっぱりアメリカなんかに行かせたのが間違いね。あの子泣いて謝ると思っていたけど、私の前では涙を見せなかった」
淳一君が、由佳と連絡がつかないと言ってきたので、家に来てもらった。
こんな事を先延ばしにはできない。妻が由佳から聞いたことを婉曲に話した。
由佳に恋人ができたこと。八月には帰国しない。淳一君には悪いと思っている。
それを聞いて彼は顔色を変えた。
「すぐにでもアメリカへ行って、彼女に事情を聞いてきます。直接聞かないと納得できない」
当然だろうな。
仕方なく私が全部包み隠さず話すことにした。
由佳が妊娠していること。相手の男性は同じ大学の陸上選手で由佳がサポートしている。
彼は彼女がいないとだめになる。子供を育てながら大学を卒業する計画だということも。
そして淳一君なら分かってくれるとも。
淳一君には感謝しているが、日本には帰る気はないという事も。
話しながら情けなくなってきた。
私が甘やかしたせいだろうか。
由佳と淳一君が一緒になることを誰よりも楽しみにしていたのに。
彼は手を握りしめ黙って聞いていた。
長い沈黙の後、ふり絞るような声で言った。
「僕の責任ですね。彼女の心をつなぎ止めることができなかった」
「君には本当に申し訳ない。父親として謝るよ」
「僕のために、みなさんに、あんなに助けてもらって、本当に俺、・・・」
そこで何も言えなくなり、走るように家を出た。
私と妻は言葉なく見送った。
愛し合う二人が助け合ってオリンピック出場の夢をかなえたんじゃなかったのか?
栄光を勝ち取った代償が二人の別れなのか?
何でこんなことになってしまったんだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる