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Ⅴ 由佳の選択
15 由佳のいない人生
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吉見先生は寺に車で来てくれた。
確かに学校とか、どこかの店なんかでは話せない。
「一年ぶりかな。どうしたの?顔色すごく悪いよ。外は暑いから車に乗ってくれる?」
エンジン音とエアコンが冷風を出す静かな車内で打ち明けた。
駐車場の前には、草の生い茂った庭が見える。井戸の横に水道があり、繋いでいるホースで由佳と水を掛け合ったことが思い出され、また唇をかんだ。
脈絡もなく、何度も同じ話を繰り返した気がする。
それでも吉見先生は黙って聞いてくれた。話し疲れて声も枯れてきた。
最後にやけくそのように言った。
「俺、やっぱりアメリカへ行きます。このままでは頭がぐちゃぐちゃだ。由佳の前で、俺かあいつかどちらかを選んでもらう。それで負けたらあきらめられる」
そこでやっと口をつぐんだ。
「つらい思いをしたわね」
初めて先生が口を開いた。
「私なんか恋愛経験が乏しいからアドバイスなんか無理。でもね、今、彼女に会いにアメリカに行くのはどうかな。もしも彼女が君に来てほしいと言ってきたら別だけど」
そんなことあるかな。助けを求められたらすぐに飛んでいくけれど。
「もしも彼女を連れて帰ることができたらどうするの?」
「もちろん彼女を責めたりしない。日本で大事にします。子供は、・・分からない」
「彼女は、あなたに大事に守ってほしいとだけ思っているのかな?」
考えてもいなかった問いかけだ。吉見先生の横顔に目を向けた。
「倉本君の話からすると、彼女はとても自立心溢れる女性のようね。彼女は誰かを支えることに生きがいを見出すのかもしれない。だから君はもう一人で生きていけるなんてことを言ったんだと思う。倉本君は裏切られたと考えているけど、由佳さんも結論を出すためにきっと苦しんだに決まっている。決してあなたのことが嫌いになったわけじゃないと思うよ」
そうかな?俺が勝手に、二人は愛し合っていると思っていただけかもしれない。
「あなたに彼女のことをもうあきらめろなんて言えない。でも今、会いに行ったらお互いにもっと傷つくような気がする。未熟な私に言えるのはそれくらいね」
じゃあ悶々として彼女の記憶が薄れるまで待つのか。千年かかるよ。
「今はつらいだろうけど、あなたは必ず立ち直ることができると思う。だって3年前、あんなに苦しい思いをしながら、高校を卒業したじゃない。いつも倉本君は現実を受け止め、逃げずに前向きに生きようとしてきた。それはあなたが世の中なんて理不尽なことばかりだけど、生きていくのに値するということを本から学んできたからと思う」
そこで一息ついた。
「こんなえらそうなこと、私が言っても説得力ないけどね」
読書か。失恋の話は確かに多く読んだな。
ゲーテの『若きウェルテルの悩み』。ヘッセの『車輪の下』。
そういえば漱石の『こころ』もそうだ。心の中で笑った。みんな主人公が死んでしまう。
俺も死んだらこのやり場のない苦しみや悲しさから抜け出ることができるのか。
由佳がいない人生なんて、生きていく価値があるのだろうか。
確かに学校とか、どこかの店なんかでは話せない。
「一年ぶりかな。どうしたの?顔色すごく悪いよ。外は暑いから車に乗ってくれる?」
エンジン音とエアコンが冷風を出す静かな車内で打ち明けた。
駐車場の前には、草の生い茂った庭が見える。井戸の横に水道があり、繋いでいるホースで由佳と水を掛け合ったことが思い出され、また唇をかんだ。
脈絡もなく、何度も同じ話を繰り返した気がする。
それでも吉見先生は黙って聞いてくれた。話し疲れて声も枯れてきた。
最後にやけくそのように言った。
「俺、やっぱりアメリカへ行きます。このままでは頭がぐちゃぐちゃだ。由佳の前で、俺かあいつかどちらかを選んでもらう。それで負けたらあきらめられる」
そこでやっと口をつぐんだ。
「つらい思いをしたわね」
初めて先生が口を開いた。
「私なんか恋愛経験が乏しいからアドバイスなんか無理。でもね、今、彼女に会いにアメリカに行くのはどうかな。もしも彼女が君に来てほしいと言ってきたら別だけど」
そんなことあるかな。助けを求められたらすぐに飛んでいくけれど。
「もしも彼女を連れて帰ることができたらどうするの?」
「もちろん彼女を責めたりしない。日本で大事にします。子供は、・・分からない」
「彼女は、あなたに大事に守ってほしいとだけ思っているのかな?」
考えてもいなかった問いかけだ。吉見先生の横顔に目を向けた。
「倉本君の話からすると、彼女はとても自立心溢れる女性のようね。彼女は誰かを支えることに生きがいを見出すのかもしれない。だから君はもう一人で生きていけるなんてことを言ったんだと思う。倉本君は裏切られたと考えているけど、由佳さんも結論を出すためにきっと苦しんだに決まっている。決してあなたのことが嫌いになったわけじゃないと思うよ」
そうかな?俺が勝手に、二人は愛し合っていると思っていただけかもしれない。
「あなたに彼女のことをもうあきらめろなんて言えない。でも今、会いに行ったらお互いにもっと傷つくような気がする。未熟な私に言えるのはそれくらいね」
じゃあ悶々として彼女の記憶が薄れるまで待つのか。千年かかるよ。
「今はつらいだろうけど、あなたは必ず立ち直ることができると思う。だって3年前、あんなに苦しい思いをしながら、高校を卒業したじゃない。いつも倉本君は現実を受け止め、逃げずに前向きに生きようとしてきた。それはあなたが世の中なんて理不尽なことばかりだけど、生きていくのに値するということを本から学んできたからと思う」
そこで一息ついた。
「こんなえらそうなこと、私が言っても説得力ないけどね」
読書か。失恋の話は確かに多く読んだな。
ゲーテの『若きウェルテルの悩み』。ヘッセの『車輪の下』。
そういえば漱石の『こころ』もそうだ。心の中で笑った。みんな主人公が死んでしまう。
俺も死んだらこのやり場のない苦しみや悲しさから抜け出ることができるのか。
由佳がいない人生なんて、生きていく価値があるのだろうか。
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