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Ⅴ 由佳の選択
16 吉見遥の決意
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コンコンと車の窓をたたく音がした。
住職の伯父さんだった。草抜きでもしていたのだろうか。作務衣姿でタオルを頭に巻いている。
ドアを開けて紹介をした。
「僕の高校の時の先生です。ここで話を聞いてもらっていました」
「それなら寺に行こう。やせたなあ、淳一君。先生も一緒に来てください」
本堂で扇風機をかけてもらい、冷たいお茶を飲むと人心地がついた。
「ここでもう少し話を聞いてもらったらいい。実は浩輔から君たちのことは聞いていたんだ。由佳も気になるが、君の方がもっと心配だとな。わしらもどうしたらいいか悩んでいたんだが、君の方が来てくれてよかった。亡くなったお母さんのお導きだな」
そう言うと出て行った。ご本尊の薬師如来像を仰ぎ見た。慈愛のある優しい目で淳一を見下ろしている。仏さんにも聞いてもらおうか。
吉見先生は眼鏡を外し、手を組んで大きく伸びをした。高校の時のままの先生だ。
「ここは落ち着くね。私、あることで迷っていたんだけど、君の話を聞いて結論が出そうになってきたわ」
吉見先生は、謎めいた笑みを浮かべた。
「去年、あなたがイギリスのお土産を持って私に会いに来てくれたよね。ゆっくり話せると思ったのに仁志さんの顔を見た途端、一緒に帰ってしまったでしょう。私より仁志さんかって少し悲しかったわ。それで今の話を聞いて、是非ある人に会ってもらいたいと思ったの。いいよね。あの時の借りを返してもらうということで。その子は、高校の時からずっと倉本君のことを片思いをしていたの。いい子よ。会えばだれだかわかると思う。後で連絡しておくわ」
片思い・・。香奈さんかな?でも今は会える状態ではない。
「会ってもいいんですが、僕の気持ちが整理できるまで待ってもらえますか」
吉見先生は、ひと月したら連絡すると言って帰った。
先生に話してよかった。ずい分気持ちが楽になった。
先生には助けてもらってばかりだ。
吉見遥は、駐車場で車に乗り携帯を持った。
彼の話を聞いて思った。彼女は倉本君が銀メダルを取った後の夢をすでに持っていた。
一方彼は、彼女にこれからの人生も自分だけを見て欲しいと願っていたのだろう。
彼も由佳さんも二十歳そこそこ。
あの二人は栄光を手にするのがが早すぎたのかもしれない。
このすれ違いのことを彼は分かってなかったようだ。
テレビで何度も見た彼女は、きれいなだけでなく意志の強そうな目をしていた。
多分、苦難や障害を乗り越えていく強い心を持っているのだろう。
彼女と比べたら、私は安易な道ばかり選んでいる。
何度も着信を知らせている携帯を見つめ、耳に当てた。
「新藤先生?長いこと待たせてごめんなさい。今日、急に教え子から相談を受けることになって行けなかったの。それで悪いけど電話で返事をします。あなたの申し出は有り難いと思うけれど、私、まだ一人の教師として勉強をしていきたい。それであの話、一旦白紙に戻してほしいの。申し訳ないけど」
後一人連絡しなくてはならないが、心配になってきた。
あの子、まだ倉本君のこと思い続けているかしら。もしあの女の子に好きな男性が現れていたらどうしよう。
それに彼の心の傷をあの子が埋められるだろうか。
軽々しく会ってほしいと言ったけれど、無責任だったかもしれない。
私なら彼を支えることができるかもしれない。そう思った瞬間、笑ってしまった。
私、何考えているんだろう。フェアじゃないわ。
電話番号を見付けて掛けた。
「私、伊吹東高校の吉見です。覚えてる?一年ぶりね。突然なんだけど先に教えてね。あなた今付き合っている人いる?」
住職の伯父さんだった。草抜きでもしていたのだろうか。作務衣姿でタオルを頭に巻いている。
ドアを開けて紹介をした。
「僕の高校の時の先生です。ここで話を聞いてもらっていました」
「それなら寺に行こう。やせたなあ、淳一君。先生も一緒に来てください」
本堂で扇風機をかけてもらい、冷たいお茶を飲むと人心地がついた。
「ここでもう少し話を聞いてもらったらいい。実は浩輔から君たちのことは聞いていたんだ。由佳も気になるが、君の方がもっと心配だとな。わしらもどうしたらいいか悩んでいたんだが、君の方が来てくれてよかった。亡くなったお母さんのお導きだな」
そう言うと出て行った。ご本尊の薬師如来像を仰ぎ見た。慈愛のある優しい目で淳一を見下ろしている。仏さんにも聞いてもらおうか。
吉見先生は眼鏡を外し、手を組んで大きく伸びをした。高校の時のままの先生だ。
「ここは落ち着くね。私、あることで迷っていたんだけど、君の話を聞いて結論が出そうになってきたわ」
吉見先生は、謎めいた笑みを浮かべた。
「去年、あなたがイギリスのお土産を持って私に会いに来てくれたよね。ゆっくり話せると思ったのに仁志さんの顔を見た途端、一緒に帰ってしまったでしょう。私より仁志さんかって少し悲しかったわ。それで今の話を聞いて、是非ある人に会ってもらいたいと思ったの。いいよね。あの時の借りを返してもらうということで。その子は、高校の時からずっと倉本君のことを片思いをしていたの。いい子よ。会えばだれだかわかると思う。後で連絡しておくわ」
片思い・・。香奈さんかな?でも今は会える状態ではない。
「会ってもいいんですが、僕の気持ちが整理できるまで待ってもらえますか」
吉見先生は、ひと月したら連絡すると言って帰った。
先生に話してよかった。ずい分気持ちが楽になった。
先生には助けてもらってばかりだ。
吉見遥は、駐車場で車に乗り携帯を持った。
彼の話を聞いて思った。彼女は倉本君が銀メダルを取った後の夢をすでに持っていた。
一方彼は、彼女にこれからの人生も自分だけを見て欲しいと願っていたのだろう。
彼も由佳さんも二十歳そこそこ。
あの二人は栄光を手にするのがが早すぎたのかもしれない。
このすれ違いのことを彼は分かってなかったようだ。
テレビで何度も見た彼女は、きれいなだけでなく意志の強そうな目をしていた。
多分、苦難や障害を乗り越えていく強い心を持っているのだろう。
彼女と比べたら、私は安易な道ばかり選んでいる。
何度も着信を知らせている携帯を見つめ、耳に当てた。
「新藤先生?長いこと待たせてごめんなさい。今日、急に教え子から相談を受けることになって行けなかったの。それで悪いけど電話で返事をします。あなたの申し出は有り難いと思うけれど、私、まだ一人の教師として勉強をしていきたい。それであの話、一旦白紙に戻してほしいの。申し訳ないけど」
後一人連絡しなくてはならないが、心配になってきた。
あの子、まだ倉本君のこと思い続けているかしら。もしあの女の子に好きな男性が現れていたらどうしよう。
それに彼の心の傷をあの子が埋められるだろうか。
軽々しく会ってほしいと言ったけれど、無責任だったかもしれない。
私なら彼を支えることができるかもしれない。そう思った瞬間、笑ってしまった。
私、何考えているんだろう。フェアじゃないわ。
電話番号を見付けて掛けた。
「私、伊吹東高校の吉見です。覚えてる?一年ぶりね。突然なんだけど先に教えてね。あなた今付き合っている人いる?」
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