恋人たちの旅路

菊池昭仁

文字の大きさ
上 下
6 / 20

床に落ちたハンバーグ

しおりを挟む
 家に帰るとハンバーグが食卓に置かれていた。

 「ただいま」
 
 娘の綾香は私を避けるように、無言で2階の自室に上がって行った。
 女房の早苗はキッチンで洗い物をしていた。

 俺はネクタイを緩め、冷蔵庫から缶ビールを出してそのまま飲んだ。

 「今日も残業?」
 「ああ」
 「女と会うことも残業って言うんだ?」
 「・・・」

 俺は早苗の言葉を無視してテレビを点けた。

 「何とか言いなさいよ!」
 「・・・」
 
 すると早苗はテーブルの上の料理を全て払い除け、皿が割れて料理が床に散乱した。

 「別れてあげるわよ!」
 「・・・」

 俺は床に散らばった食器の破片や料理を片付け始めた。

 般若のように俺を睨みつける早苗。

 「もう無理! 限界! こんな生活耐えられない!」

 泣き喚く早苗。
 私は床に転がったハンバーグを呆然と見つめていた。

 砕け散った食器や料理が、俺の家族のようだった。


 
しおりを挟む

処理中です...