恋人たちの旅路

菊池昭仁

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クリスマス・イブの約束

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 三年前のイブの夜、私はこの場所で慎一郎を見送った。
 
 慎一郎がニューヨーク支店に転勤することになり、私は彼にニューヨークへ誘われた。


 「一緒にニューヨークで暮らさないか?」


 だがその時私はそれを躊躇った。
 やっと仕事が認められ、新しいプロジェクトのリーダーにも抜擢されたばかりだったからだ。
 私は彼より2歳年上のお姉さん、迷いはあった。
 そして私は仕事を選んだ。


 (成田で彼を見送れば、自分を忘れて彼にすがって泣いてしまう)


 私は駅のコンコースで慎一郎を見送ることにした。
 慎一郎は言った。


 「三年後のクリスマス・イブ、夜の9時。もし奈美の気持ちが変わっていなければ、またここに来て欲しい」


 そう言って彼は私を振り向かず、片手を上げて新幹線の改札口を出て行った。

 彼の後ろ姿が涙に沈んで見えた。私は声を上げて思い切り泣いた。



 そして今夜が三年後のイブ、時計は21時になっていた。
 私はあの時、慎一郎と約束した場所にやって来た。
 
 髪を洗い、彼が好きだったシャネルの19番をつけ、クリスマスケーキとシャンパンを買って私は彼を待った。
 

 (慎一郎は必ず来る、絶対に来るはず)


 私はそう信じて彼を待った。
 だがすでに3時間が過ぎ、あと3分で午前零時になろうとしていた。
 

 (イブが終わる。私の恋も終わる・・・)


 諦めて私が帰ろうとした時、後ろで慎一郎の声がした。

 「奈美!」

 振り返るとそこには慎一郎が立っていた。
 会えなかった三年間、彼は素敵な商社マンの顔になっていた。

 「慎一郎・・・」
 「僕は賭けをしたんだ。柱の影でじっと君を見ていた。
 もし君がすぐに帰ってしまったら、僕の負けだと。
 イブが終わるまで、奈美が僕を信じて待ち続けていてくれたら、君は僕を本当に愛してくれていたんだと。
 この三年間、ずっと。
 僕は賭けに勝ったんだ! ただいま、奈美」
 
 私は慎一郎に抱きついて泣いた。

 「会いたかった、凄く!」
 「僕もだよ、奈美!」

 人も疎らになった駅で、私たちは強く抱き合い熱いキスをした。
 そしてイブが終わり、私たちの未来の扉が開いた。

 恋人がサンタクロース。
 最高のプレゼントを持って私の前にやって来てくれた。


 駅に流れるクリスマス・キャロル。

 来年のクリスマス・イブは、彼とマンハッタンで迎えることになるだろう。

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