20 / 20
夫婦茶碗(めおとちゃわん)
しおりを挟む
月之新は太刀を差し、登城の支度を整えた。
「お絹。それでは行って参るぞ」
「お役目、ご苦労様です」
「うむ」
月之新はお絹の腹にそっと手を置いた。
「トトはこれからお勤めを果たして参るゆえ、あんじょうしておるのだぞ」
「トト様、お気をつけて。うふっ」
「ではくれぐれも無理はするでないぞ。
腹の子にさわるでの」
「はい旦那様。言ってらっしゃいませ」
お絹は月之新を笑顔で見送った。
夕刻となり、月之新はお勤めを終え、家路を急いでいた。
城下の瀬戸物屋を通りかかると、月之新は美しい夫婦茶碗を見留た。
(そういえばお絹の茶碗が少し欠けておったはず。これを買ってまいるとするか?)
「主人、この茶碗をいただこう」
「ヘイ、ありがとう存じます」
店主は月之新に茶碗を渡した。
月之新はうれしそうにそれを携えた。
日の落ちた川辺りを歩いていると、三人の侍が行く手を阻んだ。
「中村月之新でござるな?」
「いかにも」
「訳あってそこもとの命、頂戴する。覚悟されたし」
三人の侍が刀を抜いた。
「示現流か? 生憎ワシはまだ死ぬわけには参らぬ」
月之新は夫婦茶碗を静かに置き、太刀を抜いた。
月之新は人を斬ったことがない。
相手は相当の手練れの者たちであった。
二人の武士は左右から月之新に同時に斬りかかり、そしてその頭らしき男は月之新の心の臓を突いた。
「うぐっつ お絹、我が子よ・・・」
無念の死であった。
薄れゆく意識の中で、月之新は夫婦茶碗に手を伸ばした。
「許せ。これもお役目なのじゃ」
三人の侍は、血糊の付いた刀を川で濯ぎ、去って行った。
その頃、お絹はお腹の子に話し掛けていた。
「今宵はトト様、お帰りが遅いわねえ」
パリン
突然、月之新の茶碗が割れた。
お絹はそれですべてを悟った。
「月之新様・・・」
それは武士の妻として覚悟であった。
「お絹。それでは行って参るぞ」
「お役目、ご苦労様です」
「うむ」
月之新はお絹の腹にそっと手を置いた。
「トトはこれからお勤めを果たして参るゆえ、あんじょうしておるのだぞ」
「トト様、お気をつけて。うふっ」
「ではくれぐれも無理はするでないぞ。
腹の子にさわるでの」
「はい旦那様。言ってらっしゃいませ」
お絹は月之新を笑顔で見送った。
夕刻となり、月之新はお勤めを終え、家路を急いでいた。
城下の瀬戸物屋を通りかかると、月之新は美しい夫婦茶碗を見留た。
(そういえばお絹の茶碗が少し欠けておったはず。これを買ってまいるとするか?)
「主人、この茶碗をいただこう」
「ヘイ、ありがとう存じます」
店主は月之新に茶碗を渡した。
月之新はうれしそうにそれを携えた。
日の落ちた川辺りを歩いていると、三人の侍が行く手を阻んだ。
「中村月之新でござるな?」
「いかにも」
「訳あってそこもとの命、頂戴する。覚悟されたし」
三人の侍が刀を抜いた。
「示現流か? 生憎ワシはまだ死ぬわけには参らぬ」
月之新は夫婦茶碗を静かに置き、太刀を抜いた。
月之新は人を斬ったことがない。
相手は相当の手練れの者たちであった。
二人の武士は左右から月之新に同時に斬りかかり、そしてその頭らしき男は月之新の心の臓を突いた。
「うぐっつ お絹、我が子よ・・・」
無念の死であった。
薄れゆく意識の中で、月之新は夫婦茶碗に手を伸ばした。
「許せ。これもお役目なのじゃ」
三人の侍は、血糊の付いた刀を川で濯ぎ、去って行った。
その頃、お絹はお腹の子に話し掛けていた。
「今宵はトト様、お帰りが遅いわねえ」
パリン
突然、月之新の茶碗が割れた。
お絹はそれですべてを悟った。
「月之新様・・・」
それは武士の妻として覚悟であった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる