つぶれたミカン

菊池昭仁

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つぶれたミカン

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 「ねえ、秋ってつぶれたミカンのようだね?」

 秋の香はつぶれたミカンの匂い

 あまりにも頼りなく繊細で このまま放置すれば確実に腐敗していく

 つぶれたミカン


 秋は終わりの季節

 だから美しい どの季節よりも


 「ねえ 秋ってつぶれたミカンの匂いだね? ちがう? ちがうの? じゃあ秋ってどんな匂いなの?

 君は秋を知らないんだ

 人生は秋と冬のリフレイン

 春や夏は 季節じゃない

 ただの太陽の気まぐれなんだ


 「ねえ 秋ってつぶれたミカンの味がするよね?」

 ダメだよ 腐らせちゃ

 そのまま冬まで運んで 冷凍ミカンにするんだから

 そして一緒に炬燵で食べよう 潰れたミカンを

 いいじゃないか つぶれていても

 つぶれていても ミカンはミカンだから


 「ねえ 秋って冷凍ミカンだよね? そうじゃないの? 冷凍ミカンを食べた事もないくせに」

 ボクは知っているよ だって今は秋だから

 ほら 深呼吸をしてごらんよ

 つぶれたミカンの匂いがするから


 もう春は来ない

 それだけは本当なんだ

 だって秋は つぶれたミカンだから
     
      
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