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第5話

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 百恵の母親はあっけなく逝ってしまった。
 百恵の母らしい、人にあまり迷惑を掛けない大往生だった。
 百恵もニャルソックたちも意気消沈していた。

 突然のことだったので、百恵は悪い夢を見ているのかと呆然としていた。

 もっと笑顔にしたかった。親孝行してあげたかった。
 でももう母はいない。

 百恵は人の死を見送るのが役目なのかと思った。
 愛する夫も、そして多くの猫たちも看取った。

 旦那さんを亡くした時は生きる気力を失った。
 だが子供たちをちゃんと成人させなければならないし、ニャルソックたちもいたのでヘンなことは考えなかった。
 そして丁度その時、旦那さんと入れ代わるかのようにやって来たのが八之助だった。
 百恵は八之助が旦那さんの生まれ変わりだと考え、うれしくなり、より一層可愛がった。
 イケメンで賢くて、思いやりのある八之助は旦那さんそっくりな猫だった。


 ニャルソックたちはいつものように窓から外を見ていた。

 「ニャア(あーちゃん、帰ってこないかなあ)」
 「ニャアニャ(もうお星さまになっちゃったんだよ、あーちゃんは)」

 するとオセロ姐さんは窓から離れ、憔悴している百恵の膝の上に乗り、百恵の手の甲を舐め始めた。

 「ニャオーン?(モモちゃん、悲しいよね?)」

 ペロペロ ペロペロ

 百恵はオセロ姐さんを力なく撫でた。
 オセロ姐さんは百恵を見詰めて心の中で呟いた。

 (モモちゃん、生きているということはいつも「死」と隣合わせなのよ。
 私もモモちゃんも同じ。いつ天に召されるかはわからない。
 私たちは病気や事故で死ぬんじゃない、神様がお決めになった「寿命」で死ぬの。
 だからどんなに辛いことがあっても一生懸命生きなくちゃいけないわ。明日のことは誰にもわからないから。
 あーちゃんはしあわせだったと思う。
 長く入院することもなく、最期はモモちゃんたち温かい家族や親戚、沢山のお友だちに看取られて、幸福な人生の終幕だったから。
 私にはモモちゃんやモモちゃんのお子さんたち、そしてニャルソックがいる。
 モモちゃんも同じ。そしてもちろん私もいるわ。
 モモちゃんは私たち地球防衛隊が守るから安心してね。
 モモちゃん、大好きだよ)

 ペロペロ

 百恵の目から涙がオセロ姐さんの頭の上に落ちた。
 チビ太も八之助も百恵に寄り添った。

 「ニャア(モモちゃん)」
 「ニャ~(僕たちがついているからね)」
 「しょうがないわよね? 運命には逆らえないもの」

 百恵と猫たちは号泣した。

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