【完結】樹氷(作品240107)

菊池昭仁

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第22話

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 「どうしたのヒロちゃん? ボーっとしちゃって?」
 「ごめん、何の話だっけ?」
 「だからー、今度のキャンペーンの話だよ。
 里中プロデューサーに会わせてちょうだいっていうは・な・し」
 「いいよ、話しておくよ」
 「ありがとー、ヒロちゃん大好きー!
 ねえ、もう一回して」
 「悪い、今日はもう帰らないといけないんだ。
 女房の代わりに子供たちの面倒を見ないといけないから」
 
 俺はウソを吐いた。
 今日はそんな気分ではなかった。

 「奥さんのこと、怖いんだー?」
 「困らせるなよ、そういう約束だろ? 俺たち。
 家庭は壊さないって」
 「壊しちゃおうかなー」

 俺は咲子の体を抱き締めて言った。

 「じゃあ、もうサヨナラだな?」
 「イヤだよそんなの。
 ごめんなさい、つい、意地悪したくなっちゃったの。
 私が2番で、やっぱり奥さんが1番なんだなーって思ったら、つい・・・」

 俺は咲子も女だということを忘れていた。
 性欲を満たすだけの関係に、俺はいつの間にか男としての配慮に欠けていた。
 最近、女房の奈緒が変わった気がする。
 化粧の仕方や髪型、そしてオーソドックスなコロンからDior の香水を使うようになり、子供が生まれてからはベージュの下着が多かった奈緒が、白や淡いパステルカラー、時には黒のTバックという下着も干されているのを見かけるようにもなった。

 そして何より変わったのは、俺にやさしくなったことだ。

 (奈緒が浮気?)

 奈緒はどちらかと言えば真面目で堅い女だった。
 良妻賢母のお手本のような女が不倫をするとは思えない。
 男性が多い職場とはいえ、こんなことは今までにはなかったことだ。
 すると社外の男か?
 殆どなかった夫婦の夜の時間も、いつになく積極的になっていた。
 いつもは受け身の奈緒だったが、自ら進んでオーラル・セックスにも臨んで来た。

 「出そうだよ、奈緒」

 すると奈緒は俺自身を口から外し、

 「いいよ、そのままお口に出しても。
 受け止めてあげるから」

 そう言うと、再びその行為を加速させていった。
 上下に揺れる奈緒の髪が、俺の下腹部にサワサワと触れる。
 俺は耐えきれず、そのまま奈緒の口にそれを放出した。
 だがその行為は俺の為の物ではなく、誰かを喜ばせるためののようにも感じた。

 「じゃあ今度はあなたが私にして。
 あっ、ちゃんとつけてね? コンドーム。
 流石にもう大丈夫だとは思うけど、まだ生理はあるから。
 この歳で子育てはしたくないから」

 そして奈緒は眼を閉じた。
 昔はフェイクが多かった奈緒だが、最近では本気で感じている。
 でもそれは俺のセックスに感じているのではなく、他の誰かに抱かれている自分を想像しているようだった。
 女にはそれが出来る。


 事が終わり、奈緒は冷静さを取り戻していた。
 
 「明日は会議で少し遅くなるから食事は外で済ませて来てね。
 じゃあ、おやすみなさい」

 そう言って彼女はベッドから降りると、和室の自分の布団に戻って行った。

 間違いない、妻は浮気をしている。
 俺の疑念は確信へと変わっていった。

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