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第6話

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 ラムネ色の秋晴れの日曜日、私はリサと墓地へやって来た。
 水桶と花、線香と亡夫が好きだったというショートホープとジョニ黒を持って。

 私とリサは無言のまま草を毟り、タワシで墓石を磨いた。
 花を供え、墓石に水をかけ、線香の束とタバコに火を点けた。

 ジョニ黒を紙コップに注ぎ、私はクルマだったのでお神酒程度に献杯をした。


 「貞之さん、私、この人と再婚することにしたの。いいわよね?」
 
 リサは目を閉じ、墓前に手を合わせた。
 私も無言でリサと一緒に手を合わせた。

 (あなたの愛したこの人を、今度は私が守っていきます)

 と、祈りを捧げた。


 「彼、何て言ってた?」
 「女房を不幸にしたらただじゃすまないからな? 訴訟するってさ」
 「それであなたはなんて言ったの?」
 「内緒」

 静かな晩秋だった。ススキの穂が秋風に揺れていた。



 墓参を終え、私たちはクルマに戻った。


 「だんだん寒くなって来たな?」
 
 私はエンジンをかけ、暖房とCDのスイッチを入れた。
 選曲はゴンチチにした。気持ちが安らぐ。

 「今日はありがとう。これであの人も安心したはずよ」
 「許してくれたかな? 俺たちの結婚」
 「しあわせにしてもらいなさいって言ってたわ。ふふっ」
 
 私はハンドルを握りながら横顔で笑った。



 マンションに帰り、私は花を飾った。
 墓参用に花を買った時、ついでに家に飾る花も買っていた。
 私にはある習慣があった。
 それは部屋に生花と酒を絶やさぬことだった。
 人生には花と酒、本と音楽、そして恋が必要だからだ。
 

 「いい香り、素敵なお花ね?」
 「いいよな? 花は。
 綺麗に咲いて何も言わない」
 「あら、私は綺麗だけど何でも言うわよ、ずけずけと」

 リサは笑って私の背中に抱き付き、甘えた。

 「花を見ながら飲むか?」
 「どっちのお花? これ? それとも私?
 おつまみは何がいい?」
 「マルコリーニとピスタチオでいいよ、墓に供えたジョニ黒に合うだろうから」
 「ありがとう、あなた。
 お墓参りが済んで、私もホッとしたわ。
 多分、夫もそうだと思う。私が寂しがり屋なのを知っているから・・・」

 リサは私に長い口づけをした。
 ほんのりとシャネルの17番の香りが揺れた。
 おそらくそれは、亡き夫の好みの香りだったはずだ。
 
 ダイニングに飾った花は、ガーベラを中心にしたカスミソウとフリージアだった。
 私はフリージアの香りから、冴子のことをまた思い出していた。
 フリージアは冴子が好きな花だった。


 「私、このフリージアの香りが大好き。いい香りでしょ?」

 冴子はフリージアを部屋によく飾っていた。


 「抱いて」

 リサと私は寝室へと移動した。
 フレデリック・ショパンのノクターンに合わせ、私たちの熱い行為が始まった。

 薄紫のシーツにリサの博多人形のような白い肌が栄える。

 「早く、来て・・・」

 リサの左の乳房を優しく揉みながら、右の乳首を強く吸った。

 「はっう、んっんっつ・・・あっ」

 前夫に見られているような気がしたが、私はそれに構わずリサのカラダを攻め続けた。
 リサは何度も激しく絶頂を迎え、私も想いを遂げた。

 「愛してるわ」
 「愛してるよ、リサ」

 そして私たちは深い眠りへと落ちて行った。

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