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第5話
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「ねえ、このきれいなお料理は何?」
「テリーヌだよ、ウサギの」
「えー、このピンクのやつがウサギ? ウサギさんまで食べちゃうの? フランス人は?」
「ああ、フレンチではよく出る。あと鳩とかカタツムリもな?」
「それは知ってるよ、エスカルゴでしょ?」
私はワインを飲み、テリーヌを口に入れた。
私とアリスはプランタンの近くにあるレストランで、少し早目の夕食を摂っていた。
秋分の頃になるとパリの日没は早い。
私はアリスに本場のフランス料理を教えるために、ドレスコードぎりぎりのこのレストランを選んだ。
「フランス人って何でも食べるのね?」
「ピーターラビットのお父さんウサギだって兎パイにされたからな? フランス人に限らず人間の食に対する欲望には切りがない。
中国人なんかもっと凄いぞ。熊の手に象の鼻、そして生きたまま猿の脳味噌まで食うんだからな?
それからカエルの脂肪に海燕の巣までデザートにして食べてしまう。
海燕の巣は断崖絶壁に作られているからそれを命がけで岩をよじ登り、巣を収穫する。
巣だよ巣、燕の巣。
海藻とかを食べた海燕が口で咀嚼したやつを食べるなんて信じられるか?
四川料理なんて机以外の4つ足動物ならすべて食べるという。
それに比べたら日本人の食など実に質素な物だ。
カーニバルって知っているだろう?」
「リオのカーニバルとかのあれ?」
「そうだ。でもその語源はカルバニズム、「人喰い」なんだ。
かわいいウサギまで食べるコイツらは、そのくせクジラを食べる日本人は残酷だ野蛮だという。
アイツらに「なんで牛や豚は食うのにクジラはダメなんだ?」と尋ねると、きっぱりとこう答える。
「牛や豚は神様が人間に与えてくれた食料だが、クジラは高い知能を持った生き物だからだ」と」
「なんだか納得出来ないなあ。あんなかわいいウサギを食べるなんて。他に食べる物なんていくらでもあるのにね?」
アリスはそのテリーヌがウサギだと聞いて、少し躊躇うようにそれを口にした。
「私は菜食主義だから生き物は殺さないって言って、毛皮のコートを着てクロコダイルのバッグを持っている奴もいるが、そもそも野菜だって生きているんだ。
人は生き物を殺さなければ生きてはいけない罪人なんだよ。
ライオンが生きるためにシマウマを食べるのも同じだ。
シマウマにも生きたい、食べられたくはないという願望はあるがそれはライオンも同じだ。
草食動物は良くて肉食獣は残酷だなんて決めつけるのはおかしな話だ。
アリスはこの前、ステーキを食べたよな?」
「うん、とっても美味しかった」
「でも自分で牛を殺せるか?」
「無理に決まっているでしょ、そんなの」
「でも好きだよな? 牛肉。
スーパーにパックで売られている牛肉は食べるが自分では殺せない。
嫌な仕事は他人にやらせて自分は平気で肉を食う。
どっかの悪徳政治と同じだ。嫌な事は人にやらせて自分は英雄気取りで自分の手は汚さない。
それっておかしくないか?」
「じゃあどうすればいいの? 牛を殺せないならお肉を食べるなってこと?」
「そうじゃない。この食卓に並んだものすべてが命だということを忘れないことだ。
牛を育ててくれた人、牛を屠殺してくれた人、そして命を捧げてくれた牛に対する感謝が必要だということだ。
だから「いただきます」は命をいただきますなんだ。
それなのに日本のくだらないテレビ番組はやれ大食いだとか、食べられもしない激辛バトルを面白がる。
いつかその罪を償わせられる時が必ず来るだろうがな?」
「でもさあ、日本人は偉いと思う。外人さんは食べる時には神様に感謝するけど日本人は食べた後も感謝するでしょう?「ごちそうさまでした」って」
「そうだな? アリスの言う通りだ。
感謝して食べような? このたくさんの命に」
私とアリスは目を閉じ、料理に手を合わせて感謝の祈りを捧げた。
「テリーヌだよ、ウサギの」
「えー、このピンクのやつがウサギ? ウサギさんまで食べちゃうの? フランス人は?」
「ああ、フレンチではよく出る。あと鳩とかカタツムリもな?」
「それは知ってるよ、エスカルゴでしょ?」
私はワインを飲み、テリーヌを口に入れた。
私とアリスはプランタンの近くにあるレストランで、少し早目の夕食を摂っていた。
秋分の頃になるとパリの日没は早い。
私はアリスに本場のフランス料理を教えるために、ドレスコードぎりぎりのこのレストランを選んだ。
「フランス人って何でも食べるのね?」
「ピーターラビットのお父さんウサギだって兎パイにされたからな? フランス人に限らず人間の食に対する欲望には切りがない。
中国人なんかもっと凄いぞ。熊の手に象の鼻、そして生きたまま猿の脳味噌まで食うんだからな?
それからカエルの脂肪に海燕の巣までデザートにして食べてしまう。
海燕の巣は断崖絶壁に作られているからそれを命がけで岩をよじ登り、巣を収穫する。
巣だよ巣、燕の巣。
海藻とかを食べた海燕が口で咀嚼したやつを食べるなんて信じられるか?
四川料理なんて机以外の4つ足動物ならすべて食べるという。
それに比べたら日本人の食など実に質素な物だ。
カーニバルって知っているだろう?」
「リオのカーニバルとかのあれ?」
「そうだ。でもその語源はカルバニズム、「人喰い」なんだ。
かわいいウサギまで食べるコイツらは、そのくせクジラを食べる日本人は残酷だ野蛮だという。
アイツらに「なんで牛や豚は食うのにクジラはダメなんだ?」と尋ねると、きっぱりとこう答える。
「牛や豚は神様が人間に与えてくれた食料だが、クジラは高い知能を持った生き物だからだ」と」
「なんだか納得出来ないなあ。あんなかわいいウサギを食べるなんて。他に食べる物なんていくらでもあるのにね?」
アリスはそのテリーヌがウサギだと聞いて、少し躊躇うようにそれを口にした。
「私は菜食主義だから生き物は殺さないって言って、毛皮のコートを着てクロコダイルのバッグを持っている奴もいるが、そもそも野菜だって生きているんだ。
人は生き物を殺さなければ生きてはいけない罪人なんだよ。
ライオンが生きるためにシマウマを食べるのも同じだ。
シマウマにも生きたい、食べられたくはないという願望はあるがそれはライオンも同じだ。
草食動物は良くて肉食獣は残酷だなんて決めつけるのはおかしな話だ。
アリスはこの前、ステーキを食べたよな?」
「うん、とっても美味しかった」
「でも自分で牛を殺せるか?」
「無理に決まっているでしょ、そんなの」
「でも好きだよな? 牛肉。
スーパーにパックで売られている牛肉は食べるが自分では殺せない。
嫌な仕事は他人にやらせて自分は平気で肉を食う。
どっかの悪徳政治と同じだ。嫌な事は人にやらせて自分は英雄気取りで自分の手は汚さない。
それっておかしくないか?」
「じゃあどうすればいいの? 牛を殺せないならお肉を食べるなってこと?」
「そうじゃない。この食卓に並んだものすべてが命だということを忘れないことだ。
牛を育ててくれた人、牛を屠殺してくれた人、そして命を捧げてくれた牛に対する感謝が必要だということだ。
だから「いただきます」は命をいただきますなんだ。
それなのに日本のくだらないテレビ番組はやれ大食いだとか、食べられもしない激辛バトルを面白がる。
いつかその罪を償わせられる時が必ず来るだろうがな?」
「でもさあ、日本人は偉いと思う。外人さんは食べる時には神様に感謝するけど日本人は食べた後も感謝するでしょう?「ごちそうさまでした」って」
「そうだな? アリスの言う通りだ。
感謝して食べような? このたくさんの命に」
私とアリスは目を閉じ、料理に手を合わせて感謝の祈りを捧げた。
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