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第3話
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「寺子屋ひまわり」には行政からの援助は殆どなかった。「寺子屋ひまわり」の運営は近所の商店街の人たちや企業、篤志家、そして桃香の本の印税等で賄われていた。
「世の中、中々捨てたもんじゃないわよね?」
「この活動をもっと広げていきたいものですね? そうすればひまわりで育った子供たちが世の中をより明るく豊かにしてくれるはずですから」
「ドイツにはね? こんな諺があるのよ。
魚をただ与えるのではなく、魚の獲り方を教えよ
とね? ただお金を与えるのではなく、大切なお金の稼ぎ方や、有意義なお金の遣い方を教えてあげたい。
こういう世の中になってしまったのは人との面談でのコミュニケーションが減ったからだと思うの。
昔は商店街でお肉を買ったりお酒を買ったりして情報交換をして、ご近所付き合いもあったでしょう? それがアメリカ流のスーパーマーケットが出来てめっきり会話が減ってしまった。匿名のSNSでの辛辣な誹謗中傷、自分の中に潜む闇。自分は誰で私はこういう考えを持っていると宣言することには覚悟と責任が伴わなければならない。相手の立場で物事を考えれば、殆どの争い事は消えるのにね?」
「そういう世の中にしたいですね?」
「一灯照隅、万燈照国ね?」
そこに健太が泣きながら学校から帰って来た。
「どうしたの健太君?」
「先生が、先生が・・・。ううううう」
「先生に何か言われたの?」
「担任の先生が「お前はあの「ひまわり」の子供だもんな? 良かったな? 家が貧乏で」ってみんなの前で言われたんだ!」
「なんて酷いことを・・・」
「そして「健太の母ちゃんは男と逃げてお前を置いて出て行った。哀れな奴だよ健太は」って」
いつもにこやかで穏やかな桃香が怒りを顕にした。
「ちょっと出掛けて来る!」
「ひまわり先生、落ち着いて下さい!」
桃香は薫子の制止も聞かず、寺子屋を出て行った。
桃香は学校に着くと真っ直ぐに校長室へと向かった。
「失礼します。野村先生はいらっしゃいますか?」
「ああ、「寺子屋ひまわり」の桜井さん、野村になんの御用でしょうか?」
「ウチの北野健太に酷いことを言ったらしいので、それを確かめにやって来ました」
「それはどんな内容ですか?」
「貧乏だとか、母親が男と逃げたとかです」
「野村がそんなことを言うはずがありませんね~、仮にも彼は教師ですから」
校長の佐々木は来春には教育委員会に栄転することが決まっていた。どうやら面倒なことにはしたくはないらしい。
「とにかく野村先生をここへ呼んで下さい、直接野村先生に確認しますから」
「それは出来ません、野村はそんな教師ではありません。その生徒が嘘を言っているのではありませんか?
子供はよく嘘を吐きますからね? あはははは」
「では教育委員会と話をします」
「どうぞご自由に」
校長はそんなことをしてもどうせ無駄だとわかっている。教育委員会は学校と結託して自分たちに責任が及ばないようにするのが常套手段だったからだ。
「わかりました。では明日、授業参観をすることを許可して下さい」
「それは出来ませんよ、決められた参観日においで下さい。あなただけを特別扱いすることは出来ません。どうぞお引き取り下さい」
駐車場を見ると野村の赤いスポーツ・クーペが停まっているのが見えた。
そこに丁度野村が同僚の女教師、山中と一緒に笑いながらやって来たところだった。
「野村先生!」
野村が立ち止まった。
「先生、ウチの健太に貧乏だとか、母親が男と逃げたとか言いましたよね?」
「何の話ですか? いきなり。そんなこと言うわけがないじゃないですか。僕はこれでも教師ですよ」
山中が野村を擁護した。
「野村先生はそんなことを言う教師ではありませんよ。野村先生は素晴らしい生徒想いの熱血教師ですから」
桃香は山中を無視して続けた。
「本当に言ってないんですね?」
「健太と僕のどちらを信じるんですか?」
「もちろん健太です! アンタみたいな人間が教師なのかと思うと凄く残念です。今度そんなことを言ったらこの事実を保護者会で問題にしますからね!」
「勝手にしろ! このモンスター・ペアレンツが!」
野村は山中をクルマに乗せると、急発進をさせて出て行ってしまった。
「世の中、中々捨てたもんじゃないわよね?」
「この活動をもっと広げていきたいものですね? そうすればひまわりで育った子供たちが世の中をより明るく豊かにしてくれるはずですから」
「ドイツにはね? こんな諺があるのよ。
魚をただ与えるのではなく、魚の獲り方を教えよ
とね? ただお金を与えるのではなく、大切なお金の稼ぎ方や、有意義なお金の遣い方を教えてあげたい。
こういう世の中になってしまったのは人との面談でのコミュニケーションが減ったからだと思うの。
昔は商店街でお肉を買ったりお酒を買ったりして情報交換をして、ご近所付き合いもあったでしょう? それがアメリカ流のスーパーマーケットが出来てめっきり会話が減ってしまった。匿名のSNSでの辛辣な誹謗中傷、自分の中に潜む闇。自分は誰で私はこういう考えを持っていると宣言することには覚悟と責任が伴わなければならない。相手の立場で物事を考えれば、殆どの争い事は消えるのにね?」
「そういう世の中にしたいですね?」
「一灯照隅、万燈照国ね?」
そこに健太が泣きながら学校から帰って来た。
「どうしたの健太君?」
「先生が、先生が・・・。ううううう」
「先生に何か言われたの?」
「担任の先生が「お前はあの「ひまわり」の子供だもんな? 良かったな? 家が貧乏で」ってみんなの前で言われたんだ!」
「なんて酷いことを・・・」
「そして「健太の母ちゃんは男と逃げてお前を置いて出て行った。哀れな奴だよ健太は」って」
いつもにこやかで穏やかな桃香が怒りを顕にした。
「ちょっと出掛けて来る!」
「ひまわり先生、落ち着いて下さい!」
桃香は薫子の制止も聞かず、寺子屋を出て行った。
桃香は学校に着くと真っ直ぐに校長室へと向かった。
「失礼します。野村先生はいらっしゃいますか?」
「ああ、「寺子屋ひまわり」の桜井さん、野村になんの御用でしょうか?」
「ウチの北野健太に酷いことを言ったらしいので、それを確かめにやって来ました」
「それはどんな内容ですか?」
「貧乏だとか、母親が男と逃げたとかです」
「野村がそんなことを言うはずがありませんね~、仮にも彼は教師ですから」
校長の佐々木は来春には教育委員会に栄転することが決まっていた。どうやら面倒なことにはしたくはないらしい。
「とにかく野村先生をここへ呼んで下さい、直接野村先生に確認しますから」
「それは出来ません、野村はそんな教師ではありません。その生徒が嘘を言っているのではありませんか?
子供はよく嘘を吐きますからね? あはははは」
「では教育委員会と話をします」
「どうぞご自由に」
校長はそんなことをしてもどうせ無駄だとわかっている。教育委員会は学校と結託して自分たちに責任が及ばないようにするのが常套手段だったからだ。
「わかりました。では明日、授業参観をすることを許可して下さい」
「それは出来ませんよ、決められた参観日においで下さい。あなただけを特別扱いすることは出来ません。どうぞお引き取り下さい」
駐車場を見ると野村の赤いスポーツ・クーペが停まっているのが見えた。
そこに丁度野村が同僚の女教師、山中と一緒に笑いながらやって来たところだった。
「野村先生!」
野村が立ち止まった。
「先生、ウチの健太に貧乏だとか、母親が男と逃げたとか言いましたよね?」
「何の話ですか? いきなり。そんなこと言うわけがないじゃないですか。僕はこれでも教師ですよ」
山中が野村を擁護した。
「野村先生はそんなことを言う教師ではありませんよ。野村先生は素晴らしい生徒想いの熱血教師ですから」
桃香は山中を無視して続けた。
「本当に言ってないんですね?」
「健太と僕のどちらを信じるんですか?」
「もちろん健太です! アンタみたいな人間が教師なのかと思うと凄く残念です。今度そんなことを言ったらこの事実を保護者会で問題にしますからね!」
「勝手にしろ! このモンスター・ペアレンツが!」
野村は山中をクルマに乗せると、急発進をさせて出て行ってしまった。
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