それを人は愛と呼ぶ

菊池昭仁

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第14話

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 小夜と私は半同棲を始めた。

 小夜は今まで抱いた女の中で一番いい女だった。
 私は小夜に夢中になった。

 だがそんなある日、小夜からLINEが届いた。

 
     ごめんなさい
     今日は会えない

 
 私はその短い言葉に胸騒ぎを覚えた。
 小夜の店にも行ったが、今日は休んでいるということだったので、私は小夜のマンションへ行った。

 
 部屋の前まで行くと、小夜の悲鳴が聞こえた。


 「やめて! お願い! 許して!」
 「この野郎! 大湊のチンポも咥えたのか! この口で!
 いつまで大湊と付き合っているつもりだ!
 毎日毎日、やりまくりやがって!」
 「だってあなたが、大崎さんが大湊さんの女になれって言ったから!」
 「アイツのことが好きなのか? ほら言ってみろ! この売女ばいた

 ドスン グキッ グエッ

 鈍い音がした。
 私は玄関のチャイムを連打し、激しくドアを叩いた。

 「小夜! 小夜! ここを開けてくれ!」

 どうやら小夜は若頭の大崎に暴行されているようだった。

 (小夜を助けなければ!)

 だが相手はヤクザだ、警察を呼ぶわけには行かない。


 大崎はインターフォンのモニターで私を確認したようだった。

 「支店長か? 悪いが今日は帰ってくれ」
 「大崎さん、ここを開けて下さい。さもないとデコ助警察を呼びますよ!」

 玄関ドアが開いた。
 私は大崎を突き飛ばし、寝室にいる小夜に駆け寄った。

 小夜のカラダは痣だらけになっていた。
 そこには革ベルトも落ちていた。

 ベッドのコンソールには注射器が置かれていた。
 小夜は口から涎を垂らし、虚ろな目をしていた。

 「小夜!」

 すると背後から、ペニスを勃起させたままの大崎が声を掛けて来た。

 「コイツにシャブを打ってやったから何を言っても無駄だぜ。
 もう飽きただろう? こんなシャブ中女。
 支店長にはもっといい女を紹介してやるからよお。あはははは」
 「・・・」
 「わかったらもう帰ってくれ。
 まだお楽しみの途中なんでね?」
 「大崎さん、約束が違うじゃありませんか?」
 「約束? そんな約束、した覚えはねえよ。
 さあ帰った帰った。そうじゃねえとアンタ、後悔することになるぜ。
 俺も今シャブで頭がいかれてるからな?
 何をするか自分でもわからねえ」

 すると大崎はセカンドバッグから38口径のリボルバーを私に向けた。

 「さあ、早く帰った帰った。
 見せもんじゃねえんだからな!
 それともこの鉛の弾、ぶち込まれてえのか?」

 クスリでいかれた大崎は、安全装置を外してはいなかった。
 私は両手をあげた。

 小夜が悲鳴をあげた。

 「お願い! 大湊さんを撃たないで!」

 その声に反応した大崎の隙を突いて、私は拳銃のシリンダーを手で抑えた。
 私と大崎のチカラ比べが始まった。

 「殺すぞコラッツ! 手を離せ!」

 大崎の頭突きを受けたが私はひるまなかった。
 大腿部に蹴りを入れられた。
 大崎は極真空手の有段者だった。
 だがシャブでチカラは半減していた。

 チカラ比べは私の勝利に終わった。

 私は拳銃を握ったまま、銃口は大崎には向けず、だらりと腕を下ろした。
 
 「撃ってみろよ、ほら早く!
 やれよ、殺せよ俺を! そうすればお前は昇竜会から死ぬまで追われることになるぜ。うへへへへ」

 私は拳銃に実弾が入っていないことを確認していた。
 私は自分のコメカミに銃口を当てた。

 「どうしても小夜を渡さないというのなら、私はあなたの拳銃でここで死にます」
 
 小夜が叫んだ。

 「やめて大湊さん! 馬鹿なマネはよして!
 私は大崎のオモチャなの! だからもう帰って!」
 「いい度胸してるじゃねえか? そこら辺のチンピラ極道とは大違いだぜ」
 
 そして私は大崎に拳銃を返した。

 「やるなら殺って下さいよ。昇竜会の若頭に殺られるなら私も本望です」
 
 大崎は私に静かに銃口を向けた。
 興奮してアドレナリンが分泌され、それがシャブの効果をさらに助長させたのか、大崎は射精して笑っていた。

 「死ねや大湊!」

 大崎は引き金を弾いた。

 パチン

 やはり弾はなかった。

 「あはははは そうまでしてこの女を庇う必要がどこにある?
 女なんていくらでもいるじゃねえか?」
 「俺はあなたから小夜を300万円で買った。
 どうしようと俺の勝手だ。
 小夜を返してくれ。
 そうでなければ300万円はおたくの組長から返してもらうまでだ。
 本社は昇竜会の元締めと繋がっているのを忘れたわけではありませんよね?」

 大崎はニヤリと笑った。

 「さすがは最年少でSGTの支店長になっただけはあるな?
 負けたよ、この女はお前にくれてやる」

 大崎は服を着て身支度を整え始めた。
 
 「これは利息だ、やるから取っておけ」

 大崎はジャケットからトカレフを取り出し、私に寄越した。
 
 「こっちは実弾入りだ。護身用にやるよ」

 そう言って若頭は帰って行った。


 私は小夜をやさしく抱き締めた。

 「痛いだろ?」
 「ご、ごめん、なさい。私、のため、に・・・」
 「骨折はしていないようだが、内蔵や脳に損傷があるといけないから、知り合いの闇医者に診てもらおう」
 「大丈夫、私なら大丈夫だから」
 「安心しろ、その医者なら警察に通報したりしないから」

 
 私は小夜をクルマに乗せ、大迫医院へと向かった。


 「随分派手にやられたな? 相手はヤク中のヤクザってところか?
 脳と内臓は心配ないようじゃ。それにしても酷くやられたな?
 全治2週間と言ったところじゃな?」
 「先生、ありがとうございます」
 「だがかなりクスリを常習しているようじゃ。
 知り合いの精神科医がおるから、紹介状を書いてやろう。
 ソイツも口が硬いからなんとかしてくれるじゃろう。
 クスリが抜けて、禁断症状が出る前に行ってみるといい」
 「お世話になります」
 「・・・病院はイヤ」
 「このままだとアンタは廃人になってしまうぞ」
 「それでもいい」
 「馬鹿なことは言うな。ちゃんと治してもらえ」


 小夜は閉鎖病棟へ入院することになった。
 

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