★【完結】オレンジとボク(作品230729)

菊池昭仁

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第6話

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 空は高く、絹雲たなびく秋空だった。
 俺はその日、オレンジとデートのために学校を仮病で休んだ。


 「ジュン、まずはボーリングしよう」
 
 私服姿のオレンジはかなり大人びて見えた。
 膝下までのフレアスカートがボーリングをする度にセクシーに揺れた。
 それを見ないように努力はしたが、ダメだった。
 オレンジの投げたボウルはゴロゴロと転がって丁度ピンの配列の先頭に当たった。
 バラバラとピンが倒れ、右端の2本のピンだけが惜しくも残ってしまった。

 「絶対にスペアを取るからね?」
 「がんばれ柑奈」

 オレンジは強い決意と共に残ったピンに狙いを定める、美しいフォームでボウルを投げた。
 少しゆっくり目のボウルは徐々にピンに近づいて行き、やがて2本のピンは小気味良い音と共にはじけ飛んだ。

 「やったー! ジュン、スペアだよ! スペア!」

 オレンジは小さくジャンプを繰り返し、俺とハイタッチをした。
 その時初めてオレンジの手に触れた。
 その手はとても柔らかく、少し冷たい感触があった。


 俺の番になった。
 オレンジに良いところを見せようと、やや緊張していた。
 そのせいで投げたボウルはかろうじてガーターこそまぬがれたが、倒れたピンはたったの1本だけだった。
 でもオレンジは笑わなかった。

 「ジュン、スペアだよ! 大丈夫、絶対に大丈夫だから!」

 オレンジはじっと残ったピンを見詰めていた。
 その美しい横顔に見惚れた。


 結果として5本が残ってしまい、俺もオレンジもがっかりした。
 俺たちはよく笑い、そしてはしゃいだ。

 スコアは俺が135でオレンジが96という低レベルなボーリングではあったがとても楽しいボーリングだった。




 ランチはモスバーガーにした。

 「このモスのソースがいいのよねー、バンズも美味しいし。
 それにこのクラムチャウダーも最高」

 オレンジは口の端についたハンバーガーのソースを薬指で拭い、小さな舌でそれを舐めた。

 「私ね、ばあちゃんとふたりで暮らしているの。パパはいない。ママは京都の祇園でクラブをやってる。
 ジュンのところは?」
 「父さんは銀行員で母さんは家にいるよ」
 「いいなあ、ジュンにはパパとママがいて」

 オレンジは少し寂しそうだった。
 俺はそんなオレンジを守ってあげたいと思った。



 ハンバーガーを食べ終わると映画を観に行った。
 「グリース」というジョン・トラボルタが主演の映画だった。
 スピード感のあるダンスシーンの多い映画だった。
 観客は若いカップルが多かった。上映中、オレンジはそっと俺の膝に手を置いてくれていた。ドキドキした。

 
 映画が終わりに近づいた時、オレンジの手が俺の手を握った。
 そしてオレンジが耳元で囁いた。
 オレンジの髪が俺の頬に触れ、シャワーコロンの甘い香りがした。

 「好きよ、ジュン。大好き」

 みんなが映画に集中している最中、オレンジの柔らかい唇が俺の唇を捉えた。

 俺たちはジョン・トラボルタを無視してキスに没頭した。
 初めてのキスだった。
 映画の内容はほとんど覚えてはいなかったが、それは俺にとって最高のラブシネマになった。


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