白い花

菊池昭仁

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白い花

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 流れ流されて 名も知らぬ北の港町

 昨夜ゆうべ降った雪を乗せ

 咲く 名も知らぬ白い花

 「匂いを嗅いでごらんなさい」

 俺を手招くお前がいた

 お前と同じ 「くちなし」の香り

 あれから5年 今も離れぬ淋しい笑顔

 そっと花の雪を払う

 もう一度 お前に会いたい



 凍てつく寒い 夜の街 

 水溜りを避けて 彷徨い歩く

 赤提灯あかちょうちん 縄暖簾なわのれん

 ひとり飲む酒 涙酒

 男がひとり 酒を飲む

 固くなった焼鳥 冷めたおでん 

 お前の笑顔が目に浮かぶ 

 今年も桜は咲くだろう

 そして心はいつも冬

 もう一度 お前に会いたい


 
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