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第6話

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 舞浜駅に向かって歩いていた碧が、ちょっとよそ見をした時、3人組のヤンキーのひとりとぶつかってしまった。
 だがそれは、明らかに故意的に男の方から碧にぶつかって来たように見えた。

 「ごめんなさい」

 咄嗟に碧は謝り、そのままその場を離れようとした時、
 ぶつかってきた男はそのままその場へ倒れ込み、叫び声を上げた。

 「ぐうっー 痛ってー、折れた! 骨が折れたかもしれねえ!」
 「大丈夫かマサオ? 今、救急車を呼ぶからな? やったのはこの姉ちゃんか?
 綺麗な顔してけっこうエグイことしてくれんじゃねえか!
 どうしてくれんだよこの怪我! 骨が折れてるってよー!」

 碧は怖くなり、早川に縋るしかなかった。
 
 早川が碧に追いつくと、間に分け入ってくれた。

 「どうしたの? 碧ちゃん」
 「何だテメエーは? この女の連れか?」
 「そうですけど彼女が何かしましたか?」
 「何かしましたかだあ? これを見ろ! 俺のダチがこの女に突き飛ばされたんだよ! 思いっきりな!
 どうしてくれんの? えっ! 落とし前つけろや! このメガネ豚!」
 「僕、見てましたよ。あなたたちが碧ちゃんにわざとぶつかって来たのを」
 「お前、俺たちに喧嘩売ってんの? この俺たちに?」
 「やられてえのかコラッ!」

 早川は怯むことなく淡々としていた。

 「言い掛かりは止して下さい。警察を呼びますよ」
 「警察でもなんでも呼べや! このブタ野郎!」

 早川がスマホに手をかけた瞬間、男がそれを取り上げ、アスファルトにスマホを叩きつけた。
 スマホのガラス面にひびが入った。

 するとその男が早川の腹を蹴り上げ、早川はそのままうずくまってしまった。
 サッカーボールを蹴るように、3人掛かりで蹲っている早川を蹴りまくった。
 早川は抵抗することができず、されるがままになっていた。

 碧は恐怖のあまり声も出せず、立ち尽くしたままだった。


 「碧ちゃん、ボク、ボクは大丈夫、だ、早く、早く逃げて!」
 

 それを見ていた周囲の人が警察に通報してくれたのか、パトカーのサイレンの音が近づいて来ると、男たちはたちまち逃げ去って行った。

 
 碧は早川に駆け寄った。

 「早川さん! 早川さん! 大丈夫ですか! しっかりして下さい!」
 「だ、い、じょう、ぶだから、さき、に、かえって、いい、です、よ・・・」

 やがて救急車も到着し、早川はストレッチャーに乗せられ、碧が付き添った。


 「ごめんなさい、ごめんなさい早川さん。私のために・・・」
 
 碧は顔を両手で覆って泣いた。

 「大丈夫、だよ、碧ちゃん、もう、泣かないで」
 


 病院に着くと、様々な検査が行われたが、特に異常はないということだった。

 会計の順番を待合所で待っていると、早川が言った。

 「大したことはないようだから、碧ちゃんはもう帰っていいよ、災難だったね? 今日は。ははははは」

 早川は笑っていた。


 「ごめんなさい。私のために。
 でもすごくうれしかった。早川さんが私を庇ってくれた時、胸がキュンとしちゃった。
 体がよくなったら、改めてデートして下さいね? お願いします」
 「遠足じゃなくて、デート?」
 「もちろんですよ、今度はデートでお願いします」
 「ヤッター! 碧ちゃんとデートだあ!」
 「そんなに喜ばなくても」

 碧はうれしかった。
 命懸けで自分を守ってくれた早川の行為が。


 しかし、その時の早川の目は冷酷に光っていた。

 (碧ちゃん、僕のことをそんなに甘く見ない方がいいよ。僕は狡賢いカジモドだから)

 何も知らない碧は、早川の背中を優しく摩り続けていた。

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