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第17話 宣戦布告

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 ワイパーも効かないような、土砂降りの雨の夜だった。

 「アニキ、腹減りませんか?」
 「夕方、とんかつの大盛りを食わせてやったばかりじゃねえか? このブタ野郎」

 横田は咥えタバコで、右手でハンドルを握っていた。

 「俺、まだ18っすよ、育ち盛りっす」
 「しょうがねえなあー、サブの店に寄って何か食って行くか?」
 「アニキ、大好きっす!」
 



 如月組の横田と子分の正雄は、サブの店に寄った。
 サブの店はラーメンと餃子が売りの、街中華の店だった。

 商店街の一角にある小さくて古い店だが、味は悪くなかった。
 グルメ雑誌にも時々紹介されてもいた。


 「サブ、ウーロン茶に餃子」
 「おい正雄、いつまでも横田のアニキに運転させてんじゃねえぞ。いいかげんに免許くれえ取れや。
 そうじゃねえとアニキが酒、飲めねえじゃねえか!」

 サブは中華鍋を煽りながら正雄に言った。

 「正雄、おめえは何がいい?」
 「タンメンの大盛りと炒飯の大盛り、それから・・・、餃子もいいすっか?」
 「おまえ、本当によく食うなー?
 サブ、正雄に餃子、二人前追加だ」

 正雄の家は貧乏で、ロクに小学校すら行っていなかった。
 読み書きが苦手で、クルマの運転免許も取れず、いつも横田が運転していた。

 児相と家を行ったり来たり。
 それを正雄の家に借金の取り立てに来ていた横田が、いつの間にか正雄の面倒を看るようになったのだ。

 正雄はいつもアフリカの子供のように、栄養失調で腹水が溜まっているような子供だった。

 正雄はよく横田に懐いていた。
 横田はそんな正雄を弟のように可愛がった。


 「いつ来ても汚ねえ店だなあ、改装とかしねえのか? 味は悪くねえのによ」
 「横田のアニキ、カネがありませんよ」
 「何でだ? 繁盛してんじゃねえか? けっこうお客も入っているしよ。
 おまけにここはウチの若頭と若のお気に入りで、みかじめも格安じゃねえか?」
 「原価が高くて利益になりませんよ」
 「馬鹿野郎、そんなのおめえがアホ店主だからじゃねえか? 客に利益のねえモン食わせて、商売って言えるのか?
 ちっとは企業努力しろよ」
 「お客さんに旨い物、食べてもらいたくて。
 いいんすよ、店は別にこのままで」
 「そうすっよ、アニキ。
 美味けりゃいいんす、旨けりゃ」

 正雄は旨そうにタンメンを啜り、チャーハンを食べていた。

 「ほんとにおめえは旨そうに食うなー」

 横田はそんな正雄に目を細めた。

 正雄はタンメンを食べながら頷いていた。

 横田がタバコを咥えようとした時、突然、赤いスカジャンを着たチンピラが店に入って来た。

 手にはトカレフが握られ、男は震えていた。

 「うわっー!」

その男が叫び、横田の胸に2発、正雄の顔と腹にそれぞれ1発ずつ、合計4発の弾を打ち込んだ。

 店内は一瞬で凍り付き、お客たちは顔面蒼白で動くことが出来なかった。

 男は慌てて店の前に待機していたクルマに飛び乗り、逃走した。


 店内に響き渡る悲鳴、怯える客たち。
 サブの店は騒然となった。

 「アニキ、正雄・・・。
 救急車! 救急車を早く!」
 
 横田の飲みかけのウーロン茶がテーブルに倒れ、床に滴り落ちていた。

 横田はうつ伏せに、正雄は仰向けに口かっらタンメンを噴き出して転がっていた。

 ふたりのどす黒い血が、床に広がり始めていた。

 サブはすぐに若頭の佐伯に震える手で電話を掛けた。

 「横田のアニキと正雄が、殺られました・・・」

 サブは膝から崩れ落ち、手から携帯が滑り落ちた。

 「もしもし! もしもし!
 サブ、何があった! サブ!」

 遂に戦争が始まった。
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