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最終話 海の見えるレストラン
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「小次郎? もう戻ったの?」
小次郎が撃たれた時、雪乃はキッチンで朝食の支度をしている最中だった。
だが、小次郎の姿はそこにはなかった。
警察署では松田課長が窓に立ち、ぼんやりと雨に濡れる街を見下ろしていた。
「あいつらの顔、見たか? まるで笑っているみたいだったよな? だから俺はヤクザが嫌いなんだ。
なぜ死に急ぐ?
そんなに慌てて死ななくても、旨い物たくさん食って、姉ちゃんとヤリまくって怒鳴り散らしていればすぐに死ねるのになあ。
あいつら何のために生きていたと思う?
何を守ろうとしたか分かるか? なあ、係長。
アイツら、俺たちみたいにただボーッとなんか生きていねえもんなあ。
己の義のために命を捨てたんだよ、あの三人は。
係長には命よりも守りたい、大切な物ってあるか?
死んで欲しいような威張り腐った奴らは物凄く健康に注意して、1秒でも長生きしようと生に執着する。
醜いよなあ。
おい、タバコあるか?」
「松田課長、ここは禁煙です」
「いいじゃねえか今日くらい、あいつらの線香代わりだよ」
小次郎の葬儀には町中が黒い花輪で埋め尽くされていた。
多くの市民も小次郎の死を悼み、弔問に訪れていた。
雨の中、弔問の列はどこまでも長く続いていた。
弔問客を迎える雪乃と弥生。そして佐伯たち。
彼女たちに涙はなかった。
小次郎の死はあまりに突然であり、まだ実感が持てなかったからだ。
彼女たちには小次郎が死んだという事実が理解出来ないままだった。
この葬儀が一体誰のものなのか? 考える余裕すらなかった。
どこからか小次郎がひょっこりと現れ「誰か死んだのか?」と訊いてくるような気さえしていた。
小次郎の棺が火葬場の焼却炉の前にやって来た時、雪乃は棺に縋り、狂ったように泣き叫んだ。
「お願い! お願いだから私も一緒に焼いて! 小次郎と一緒に私も焼いて頂戴!」
若頭の佐伯も弥生も、そんな雪乃を見てみんながすすり泣いていた。
火葬場の庭のタンポポの綿帽子が、風に飛ばされ散っていった。
小次郎の3回忌が終わった良く晴れた五月、雪乃と弥生、そして2歳になったばかりの小次郎の落とし児、小太郎の3人は、この思い出の海に再びやって来た。
「ほら小太郎、綺麗な貝殻でしょう?」
弥生が小太郎に桜貝の貝殻を渡したが、小太郎はすぐにそれを捨てた。
「せっかく弥生お姉ちゃんが拾ってあげたのにー」
「お姉ちゃんじゃないでしょ、弥生オバサンでしょう?」
「やだよ雪乃お義姉ちゃん、オバサンだなんて」
弥生も雪乃も笑った。
雪乃は小太郎に言った。
「小太郎、これが海よ、小太郎のパパの海」
「うみー?」
小太郎は首を傾げていた。
「そうよ、ここが初めてママと小次郎パパが出会った海」
眩しい五月の日差しを受け、海はダイヤをばら撒いたように煌めいていた。
小次郎から貰ったダイヤのネックレスが雪乃の胸元で輝いていた。
「ねえお義姉ちゃん、お腹空いたよー、カニピラフ食べて帰ろうー」
「イヤよ、カニピラフは殻を剥くと手が臭くなるから」
雪乃と弥生は小太郎を真ん中にして手を繋ぎ、あの海のレストランへと歩いて行った。
あの日、雪乃と小次郎が歩いたこの道を。
『傷だらけのダイヤモンド』完
小次郎が撃たれた時、雪乃はキッチンで朝食の支度をしている最中だった。
だが、小次郎の姿はそこにはなかった。
警察署では松田課長が窓に立ち、ぼんやりと雨に濡れる街を見下ろしていた。
「あいつらの顔、見たか? まるで笑っているみたいだったよな? だから俺はヤクザが嫌いなんだ。
なぜ死に急ぐ?
そんなに慌てて死ななくても、旨い物たくさん食って、姉ちゃんとヤリまくって怒鳴り散らしていればすぐに死ねるのになあ。
あいつら何のために生きていたと思う?
何を守ろうとしたか分かるか? なあ、係長。
アイツら、俺たちみたいにただボーッとなんか生きていねえもんなあ。
己の義のために命を捨てたんだよ、あの三人は。
係長には命よりも守りたい、大切な物ってあるか?
死んで欲しいような威張り腐った奴らは物凄く健康に注意して、1秒でも長生きしようと生に執着する。
醜いよなあ。
おい、タバコあるか?」
「松田課長、ここは禁煙です」
「いいじゃねえか今日くらい、あいつらの線香代わりだよ」
小次郎の葬儀には町中が黒い花輪で埋め尽くされていた。
多くの市民も小次郎の死を悼み、弔問に訪れていた。
雨の中、弔問の列はどこまでも長く続いていた。
弔問客を迎える雪乃と弥生。そして佐伯たち。
彼女たちに涙はなかった。
小次郎の死はあまりに突然であり、まだ実感が持てなかったからだ。
彼女たちには小次郎が死んだという事実が理解出来ないままだった。
この葬儀が一体誰のものなのか? 考える余裕すらなかった。
どこからか小次郎がひょっこりと現れ「誰か死んだのか?」と訊いてくるような気さえしていた。
小次郎の棺が火葬場の焼却炉の前にやって来た時、雪乃は棺に縋り、狂ったように泣き叫んだ。
「お願い! お願いだから私も一緒に焼いて! 小次郎と一緒に私も焼いて頂戴!」
若頭の佐伯も弥生も、そんな雪乃を見てみんながすすり泣いていた。
火葬場の庭のタンポポの綿帽子が、風に飛ばされ散っていった。
小次郎の3回忌が終わった良く晴れた五月、雪乃と弥生、そして2歳になったばかりの小次郎の落とし児、小太郎の3人は、この思い出の海に再びやって来た。
「ほら小太郎、綺麗な貝殻でしょう?」
弥生が小太郎に桜貝の貝殻を渡したが、小太郎はすぐにそれを捨てた。
「せっかく弥生お姉ちゃんが拾ってあげたのにー」
「お姉ちゃんじゃないでしょ、弥生オバサンでしょう?」
「やだよ雪乃お義姉ちゃん、オバサンだなんて」
弥生も雪乃も笑った。
雪乃は小太郎に言った。
「小太郎、これが海よ、小太郎のパパの海」
「うみー?」
小太郎は首を傾げていた。
「そうよ、ここが初めてママと小次郎パパが出会った海」
眩しい五月の日差しを受け、海はダイヤをばら撒いたように煌めいていた。
小次郎から貰ったダイヤのネックレスが雪乃の胸元で輝いていた。
「ねえお義姉ちゃん、お腹空いたよー、カニピラフ食べて帰ろうー」
「イヤよ、カニピラフは殻を剥くと手が臭くなるから」
雪乃と弥生は小太郎を真ん中にして手を繋ぎ、あの海のレストランへと歩いて行った。
あの日、雪乃と小次郎が歩いたこの道を。
『傷だらけのダイヤモンド』完
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