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第3話

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 「ね、ね、ね、ね、ね、の、ねえ陳料理長! すっんごーく辛い、チョー激辛四川料理を作って!」
 「どうしたキャンディ? やけにうれしそうあるな?」
 「あったりまえよー、これを喜ばなくて何を喜べっていうのよー! 今でしょ! 今!」
 「なんでそんなに辛い料理が食べたいあるか?」
 「私が食べたいんじゃなくて、私の恋敵に食べさせて懲らしめてやるのよ!」
 「恋敵? ああ、ジャスティン様のあれかあ? レディなんとかっていうあれあるか?」
 「レディなんかじゃないわよ、あんなアバズレ女。
 あのダ・サイタマ王国の王女だか何だか知らないけどさあ。
 私の大切な王子、ジャスティン様といちゃついちゃって、もうー、絶対に許せない!」
 「なるほど、レディ・ガガあるねえ?」 
 「だからレディは要らないの! それでね? 今夜の歓迎晩餐会に激辛オンパレードのお料理を出して欲しいのよ、わかった?」
 「しょうがないあるなあ、キャンディの頼みならやるしかないある。
 でもそのガガ王女の料理だけあるよ、王様と王子は辛いのはダメあるから。
 シーナ王妃は辛いの大好きだから同じ物でいいあるな?
 いつも「もっと辛くしなさい! 甘い!」って叱られるあるから」
 「お姉ちゃんはいいの、常にロックな人だから。
 キャロライナとかブート・ジョロキアとかハバネロとかをバケツで入れてね?」
 「任せておきなあるよ。穴という穴から火を噴かせてやるある!」
 「もう陳料理長はお下品なんだからあ。
 じゃあ頼んだわよ!」
 「任せて欲しいある」

 キャンディはスキップしながら厨房を出て行った。



 ガガ王女の歓迎晩餐会が始まろうとしていた。
 キャンディはいつもなら王子の給仕をするのだが、今日だけはガガ王女の給仕をすることにした。

 (うふっ、至近距離でガガ王女の悶絶する姿が観れるなんてもう最高ーッ!)


 ロン16世が盃を取った。

 「では皆の者、これよりガガ王女の歓迎晩餐会を始める。 
 ガガ王女の益々の美貌と幸福に、乾杯!」
 「乾杯!」

 (何が美貌と幸福に乾杯よ! 早漏、短小仮性包茎のくせに!)



 「今日は中華にしたのね? 陳料理長はちゃんと激辛にしてくれたのかしら?」
 「女王様には特別バージョンになっております」
 「そう? ならいいけど」

 執事のアーノルドが言った。
 アーノルドはシーナ王妃のお気に入り、イケメン執事だった。

 シーナ王妃とガガ王女には、この世の物とは思えぬチョー激辛四川料理を用意していた。
 国王とジャスティン王子は『星の王子様カレー』と、『風味まろやか麻婆豆腐』が供された。


 「うん、旨いな王子。
 やはり四川料理はこうでなくちゃいかん。
 丁度良い辛さじゃ」

 ロン16世はご満悦だった。

 「そうだね? 僕もこれくらいが丁度いいや」



 一方、ガガ王女とシーナ王妃の料理はというと・・・。

 焼けた石焼ビビンバの器には、マグマのように熱々の、超激辛四川料理が盛られていた。
 まるでキラウエア火山のように炎を上げている。

 「こちらが麻婆豆腐と鶏肉とカシューナッツ炒め、それとピーマンのジョロキア炒めでございます」

 キャンディは楽しくてしょうがなかった。
 あまりの凄まじい辛さで、目も開けられず、水中メガネを掛けているほどだった。


 「うわー! 凄く美味しそう! 涎が出ちゃいそう!」
 「ホント、凄くいい香り。そしてこの燃えるような赤。
 食欲が湧いてくるわねー!  
 ガガ王女も辛いのはお好きなの?」
 「はい王妃様、辛いの大好きです!」
 「そう? 私たち、仲良くなれそうね?」
 「王妃様にそう言っていただいて、とても光栄ですわ」
 「では、いただきましょうか?」
 「はい!」

 (お姉ちゃん何言ってくれちゃってんのよ! 一体どっちの味方なのよ! 
 でもいいわ、こんな料理、地獄の赤鬼でも泣いて逃げて行くはずだから。うふっ)


 「なんて美味しいのかしら! 凄いわ、こんな美味しい中華は初めてです!
 ダ・サイタマ王国にもありません、こんな四川料理!」

 なんとガガ王女は美味しそうに激辛中華を食べているではないか! しかもたった5分でそれをすべて平らげてしまった。

 (ウソ! なんともないの?)

 「次のお料理はアワビのカキソース、デスソース仕立てでございます」
 「キャロライン・リーパーとジョロキアの炊き込みご飯でございます」
 「コンドルの爪、青椒肉絲になります」
 「ブート・ジョロキアの黒酢酢豚です」
 「蒙古タンメン中本の『北極の超』です」


 だがガガもシーナ妃も、汗ひとつ掻いてはいなかった。

 「こちらが最後のデザートになります。
 ジョロキア、キャロライン、鷹の爪添えのハリケーン・ゲッツのハバネロアイスでございます。
 お口直しにどうぞ」

 ガガ王女もシーナ王妃もすべて食べてしまい、ケロッとしていた。

 
 「今日のお料理はとても良かったわ、陳料理長をここへ」

 スーハー スーハー

 陳料理長は消防士の耐火服を着て、シーナ王妃たちのところへやって来た。
 厨房のコックたち数名は、あまりの辛さのために救急車で運ばれてしまった。


 「お味は起きに召していただけましたあるか? スーハー」
 「とっても美味しかったわ。
 流石は四川料理の神ね? 次回からもこれでお願いね?
 今まではパンチが足りなかったけど、今日のお料理なら合格よ。
 ありがとう、陳料理長」
 「スーハー ありがたきしあわせにございますある」

 ガガ王女も口の周りをナプキンで上品に拭くと陳料理長を褒め称えた。

 「料理長さん、とっても美味しかったわ。今度は我がダ・サイタマ王国に国賓としてご招待しますね?」

 ガガ王女にウインクまでしてもらい、陳料理長はスキップをして厨房へと戻っていった。


 (中々やるじゃないの? 今に見てらっしゃい。今回はリハーサル、これからが本番なんだから!)


 キャンディは次の作戦を考え始めていた。

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