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第24話 落とし前

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 光一郎はロサンジェルスに向かう機内にいた。
 今まで人と争うことを光一郎は避けて来た。
 それが自分が傷付かない唯一の処世術だと思っていたからだ。

 だが、今回、光一郎は初めて人を憎んだ。
 怒りの炎に包まれた光一郎は、サンディエゴの冴島に会うことを決めたのだった。



 五菱商事のサンディエゴ支店に光一郎は冴島を訪ねた。

 受付の白人女性に光一郎は英語で用件を伝えた。

 「冴島支店長にお会いしたい」
 「アポイントメントはございますか?」
 「君島遥の夫だと伝えてくれれば分かる」


 するとすぐに冴島がやって来た。

 「初めまして、冴島です」

 その瞬間、光一郎は何も言わず、いきなり冴島の左頬を殴りつけた。
 すぐにガードマンが駆け付けると、光一郎に銃を構えた。

 「両手を挙げろ!」
 「NO! 何も問題はない!」

 冴島が叫んだ。
 
 「申し訳ありませんでした。君島さん、すべての責任は私にあります、気が済むようにして下さい」

 すると冴島はゆっくりと立ち上がり、光一郎の前に立った。
 
 「私はあなたに会って謝罪すべきだった。だが信じて欲しいんです、私はあなたから逃げたのではなく、奥さんから、いや、奥さんを諦められなくなりそうな自分から逃げたのです。
 償いはさせていただきます。本当に申し訳ありませんでした」

 冴島はそう言うと、そのままそこに土下座をし、床に額を着けて光一郎に詫びた。

 「私は遥に浮気されました。いや浮気ではなく本気だったのかもしれない。
 私は遥を責める気はない、浮気される自分に男としての魅力がなかったからだ。
 だが、あなたは許せなかった、だから日本からわざわざここまで来た。
 私たち家族の平穏な日常を奪ったあんたを、俺は憎んだ」

 冴島は頭を上げることはなかった。

 光一郎は冴島の脇腹を蹴り上げた。するとガードマンがそれを制した。

 「それくらいにしてやれ、もういいだろう?」

 冴島は言った。

 「いいんだ、その人を放してくれ、すべて俺のしたことだ、俺はこの人から罰を受けなればならないんだ!」

 黒人のセキュリティは光一郎を放した。


 「最初の1発は私の分、そしてさっきのは娘の紅葉の分だ。
 立て! 顔を上げろ、そしてこれが遥の分だ! おまえに弄ばれ、捨てられた遥の!」

 光一郎は冴島の胸倉を掴み、冴島の顔面を殴りつけた。


 鼻血を出して俯く冴島。
 冴島の血が、ポタポタと白い大理石の床に落ちた。
 光一郎はそのままエントランスを出て行った。



 西海岸のカリフォルニアシャワーの陽射しと、爽やかな海風が吹いていた。

 光一郎は近くのハンバーガースタンドでコーラとハンバーガーを注文し、ビルの屋上にたなびくたくさんの大きな星条旗を眺め、泣きながらそれを食べた。

 冴島を殴った右手の痛みを感じながら・・・。
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