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第4話 焼肉とビール

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 小夜子は美しい華奢な喉に、冷えた生ビールを流し込んだ。

 「冷たくて美味しい~! 昼間飲むビールは最高ね?」
 「俺はキャンプとか、バーベキューをしないからわからないが、青空の下で飲むビールはもっと旨いのかもしれないな?」
 「昼は昼でも、焼肉屋さんでのお昼だからね?
 気持ちいいんだろうけど、私、アウトドアの服は持ってないし、虫に刺されるのもイヤ。
 蛇とか熊さんも出るだろうし。
 バーベキューは後片付けも面倒だし、手が汚れるでしょ?」
 「サヨには山は似合わないよ、ビーチでのビキニなら似合うけどな」
 「別に外で飲まなくてもいいの。時間的に昼間であればそれで。
 みんながお仕事をしている時に、こうして飲む背徳感? ちょっと不良になった気分がいいのよ」
 「外で焼肉よりも、俺は店の中での焼肉の方がいいな? ビールもキンキンに冷えているし」
 「焼肉とビール、私とあなたみたいね?
 これでワンセット、どちらが欠けても駄目」
 「俺が焼肉?」
 「私が焼肉よ、肉食系だから」
 「ビールって不思議な酒だよな?
 あのピラミッドを作っていた労働者の賃金は、ビールで支払われていたと聞いたことがあるが、それだけ魅力のある飲物だったんだろうな? 生温いビールでも。
 ビールは麦芽をビール酵母で発酵させてアルコールにするんだが、炭酸の爽快感とホップの苦みのあるラガー、ピルスナーが主流だ。
 他にエールとか色んなビールがある。「液体のパン」とも呼ばれ、紀元3000年も前からメソポタミアのシュメール人は既にビールを飲んでいたそうだ。
 そのビール作りの行程が「モニュマン・ブルー」という粘土板に描かれているらしい」
 「そんな大昔からあるの? ビールって?」
 「そうらしいよ、そしてその後、修道院でも作られるようになる」
 「お酒を修道院で?」
 「ほら、キリスト教ではパンは「キリストの肉」だろ? 
 ビールが「液体のパン」なら、それは「液体のキリストの肉」だというこじつけさ。
 そしてジャンジャン旨いビールを作ったわけだ。
 男ばかりの修道院では、そりゃ酒も飲みたくなるはずだ。
 酒を飲んで魔女狩りで女をレイプして、今のキリスト教にはその面影もないけどな? もちろん男色も盛んだったはずだ」

 小夜子はハラミを口にした。

 「こういう洒落た焼肉屋のビールはピルスナー・グラスタイプが多いのがチョッと残念だ。
 俺は一度に飲む量が多いから、このグラスだと1回で飲み干してしまう。
 サヨみたいに、どんな酒も同じペースでは飲めないから。
 大ジョッキで豪快に飲みたいよ。何度もお替りするのも面倒だし」
 「私は大ジョッキだと温くなるのがキライ、重いし。それにお洒落じゃないでしょ?」
 「ドイツに行くと、あまり缶ビールは見かけないんだ。殆どが瓶ビール。
 おそらくそれはアルミ缶の匂いが嫌なんだろうと思うんだ。
 死んだ親父もよく言っていたよ、「缶臭くて缶ビールは旨くない」ってね。
 だからいつも親父は瓶ビールばかりを飲んでいた。
 ビールは昔、長靴で飲んでいたらしい」
 「えっー、私のピンヒールにシャンパンならいいでしょうけど、あなたの長靴でビールはねえ。
 ちょっと考えちゃうな」
 「踏み絵だな? サヨが俺を本当に愛しているかどうか?
 愛していたら飲める筈だ」
 「あなたは私のヒールでお酒が飲める?」
 「もちろんだよ! よろこんで!」
 「うーん、じゃあ私も飲むわ」
 「ホントに?」
 「うん、でももっと意識がなくなるまで飲んでからね?」
 「まるで手術の時の麻酔じゃないんだから。あはははは。
 すみません、生お替り。サヨは?」
 「私もお替り」
 「じゃあ、生、3つね、俺、すぐ飲んじゃうから俺はふたつ、一度に持って来てね」

 私と小夜子の焼肉宴会は、いつものようにダラダラと続いた。
 
 人生には旨い酒といい女がいればそれでいい。

 この女に惚れて、本当に良かったと思った。
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