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第二章

第3話 その理由

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 東京タワーがクリスマスツリーのように煌めいていた。
 ホテルの窓から見える景色は光り輝く摩天楼の森へと変わっていた。

 俺たちはサバンナを駆ける野生動物のように激しく愛し合い、ようやく落ち着いた。
 俺はネコを撫でるように絹世の背中を撫でていた。
 何度もエクスタシーを彷徨い、絹世は微睡まどろんでいた。


 「私、SEXがこんなに・・・、いいものだなんて、知らな・・・、かったわ。
 こっそり観るアダルトビデオ・・・、なんて・・・、作り話なのね?
 私を・・・、こんなカラダにして、責任、取ってね? 杉サマ・・・」
 「もちろんですよ。絹チャンをこんなエロい女にした責任はちゃんと取りますよ」


 俺の胸を絹世の黒いネイルが辿る。
 絹世は思った通りの女だった。

 幼少期から親の期待を一身に背負い、あれもダメこれもダメと常に自己否定されて育てられた絹世。
 お嬢様大学を出て、見合いで今の旦那と結婚したらしい。
 親が厳しく、初めての男は今の夫だったと言う。
 絹世は他の男を知らなかった。

 生活には困らないが子宝には恵まれず、義母たちからいつも嫌味を言われていたらしい。

 「絹世さん。病院にはちゃんと行っているの?
 早く私に孫を抱かせて頂戴ね?」

 絹世の心は枯渇していた。
 俺はその乾いた彼女の心にカラダに、雨を降らせたまでの話だ。
 絹世にとって今日の経験は刺激でも、それは普通の男女が営む行為と差ほど変わりはなかった。

 俺は絹世を軽く抱きしめた。

 「すごく良かったよ。SEXの相手はね? 普段の相手からは想像が出来ないような相手が理想なんですよ。
 いつもは清楚でおしとやかなあなたが豹変する様は、とても興奮しました」
 「恥ずかしい・・・。でも好き、杉サマのことが好き」
 「僕でいいんですか?」
 「あなたがいいの、杉サマがいいの。
 私、夫に不満はないのよ。でも今日、あなたに出来たことでも夫には無理」
 「どうして?」
 「愛してないから。好きじゃないの、あの人のことが」
 「俺は好きだけどなあ、田代さん。面倒臭いことは言わないし、紳士だし」
 「私は杉サマが好き」
 「俺も絹チャンが好きだよ」
 「また会ってくれる?」
 「もちろん。私で良ければいつでもお話し相手になるよ」
 「お話しだけじゃイヤ」
 「そろそろご主人が帰って来る時間じゃないの?」
 「大丈夫、今日は大学時代の友人と会って来ると言って来ているから。
 それにいつも遅いのよ、仕事が大変みたいで。
 帰って来ても見もしない深夜のテレビを流したまま、黙って食事をして後はお風呂に入って寝るだけ。
 普通の夫婦ってそんなものなのかしら?
 今夜は興奮して眠れないかも。どうしてくれるの? 杉サマ?」
 「その時は田代さんに慰めてもらえばいいじゃないですか?」
 「杉サマの意地悪。
 私たち、もう寝室は別々なのよ・・・」
 「どうして?
 あんなに広く寝室を作ったのに」
 「私たち夫婦には広すぎたわ」

 (田代さんが浮気を?)

 俺は直観的にそう感じた。

 彼女は女ざかりであり、寂しかったのだろう。
 また俺の悪い癖が始まった。
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