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第二章 乗っ取られた国

32 何も見なかった、しなかった……

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 「『虹水こうすい』――バージョンは氷で」
 
 魔法で作った水で空いた穴に薄く水の膜を張り、それを瞬時に凍らせて穴を埋める。
 見た感じは全く見分けがつかなくなった。
 
 ちなみに、この氷は特殊な水で出来ている。
 よっぽどのことが無い限り溶けることはない。
 
 ……別に虹色の水をしている訳ではない。珍しいからである。
 というかコノハが作った魔法であったりする。
 
 
 
 「……出来た」
 
 窓ガラスの穴を割りと簡単にふさいだコノハはあの怪しげな魔道具の解析をしていた。
 
 解析には三十分かかっていない。

 「――やっぱねぇ、そうだろうとは思ってたけど」
 
 この魔道具の効果は『契約』だった。
 しかし、あまり性能が良くないようで、繋がっているのは“目”――視界だけのようだ。
 
 だが、一般的な物よりたちが悪い、相手の同意がなくても使えるというギルドのルールを守っていない裏の魔道具だ。
 
 ルールがあっても守らないやつは世の中に沢山いるということだ。
 竜が来る前にマスターが話してたのを思い出す。
 
 (あんまり興味なかったからちゃんと聞いてないけど)
 
 というか、めんどかったので。
 
 (そういうのはマスターの仕事だと思ってたし)
 
 あの時はだるかった(めんどくて)のでマスターに丸投げした。
 
 ……とまぁ、その話は置いといて。
 というか、問題はそこじゃない。
 
 『契約』の魔道具なら、契約した相手――つまり、あの煩いカラスをやつがいるということになる。
 
 《希代の魔女》の家の偵察、だったりしたらまだましだが、コノハがここにいると知って送ってきたなら既に居場所が特定されている、ということになる。
 それが国の――あの王様腹黒の策略だとすれば?
 しかも、この『契約』は“目”が繋がっている。
 視界が共有されているため、契約者はカラスの見たことをそのまま見ることができる。
 その契約者に見られたら?
 
 間違いなく、来る。
 なにがなんでも、来る。
 
 「めんどいことをするなぁぁぁ!!!」
 
 コノハは思わず叫んだ。
 叫ばずにはいられなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 だが、ここはSランクの迷いの森だ。
 しかも《指定災害区》とくる。
 国の兵といえど迂闊に入れば死にかねないし、そもそも《指定災害区》に兵を派遣する馬鹿はいないだろう。
 
 《指定災害区》は世界中の国が関わりたくない、という場所につけられているのだ。
 わざわざそんなことはしない……と信じたい。
 
 (…………もう、考えるの、やめよう)
 
 魔道具をそっとマジックボックスの奥深くに入れた。
 ……マジックボックスに手前も奥も関係ないが。
 
 (………私は何も見なかった、しなかった………)
 
 
 コノハは現実から逃げる、という選択をした。
 
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