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3rd day
幕間――月下狂気
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月の明るい夜だった。
彼女――ユフィは誰もいない屋上で一人、月を眺めていた。
観光都市らしくこの時間にも街には街灯が灯り人々の姿で賑わっているが、その喧騒はここには届かない。
都合が良かった、とユフィは思う。
元々彼女は騒がしいのを好まないし、何よりも彼女の〝正体〟が知れてしまえば、きっと大騒ぎになってしまうだろうから。
ユフィは夜空に浮かぶ月を何をするでもなくただ見上げている。
彼女は月を眺めるのが好きだった。
昔、彼女の兄と共に見上げた大切な記憶を思い起こすことができるから。
「こんばんは。良い月だね」
不意に声をかけられ、ユフィは後ろを振り返った。
その存在を視界に収めて微笑する。
「ええ。お久しぶりです、アルカ様。十年ぶりですね」
挨拶を返すと、人ならざる聖霊はなぜか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「? なんでしょう?」
「……いや、うっすい反応だなと思って。十年ぶりの再会だよ? もうちょっと驚いたりとかしないの? まるで近所の知人に偶然出会したみたいな反応じゃないか」
「ああ、そういうことですか。もちろん驚いておりますよ。ただなんとなく、そろそろいらっしゃるだろうなとは思っていましたから」
だから、それほど意外でもなかった、とユフィはしっとりと言った。
アルカはぶすくれるように唇を尖らせる。
「……つまらないなあ。当時から異常に敏い子だとは思ってたけど、この十年でさらに磨きがかかったみたいだね。まったく揶揄い甲斐のない」
「恐れ入ります。アルカ様は……なんだかとても幼い姿になられましたね」
「聖剣を折られた影響でね。この姿を顕現できるようになったのもつい最近さ。てか、この説明はさっきアウローラにもしたんだけどね」
アウローラの名を出した瞬間、ユフィの表情から波のように、さあ、と感情が引いていく。
思惑通りの反応にアルカは意地悪く、にやり、と笑った。
「どうかしたのかい? なんだか怖い顔になってるけど」
「……相変わらずお人が悪い。あの女の名前を出せば私がどういう反応をするかなど、解りきっていたことでしょうに」
じとりと言うと、アルカはさも愉しそうに声を上げた。
「ごめんごめん。せっかくこうして顔を合わせているのに取り繕った言葉と表情じゃあまりにも味気ないだろう? 遠慮はいらない。本性を出しなよ」
聖霊はこれ以上ないという、挑発的な笑みを浮かべた。
両者の視線がぶつかり合う。
ユフィは俯き、小さく息を吐いた。
そして次の瞬間、ぞわりと空気が変わった。
この場に他の者がいたら、あまりの重圧に背筋が凍っていただろう。
顔を上げたその時、ユフィの瞳の輝きは消失していた。
万人が美しいと感じるであろう笑顔が剥がれ落ち、ユフィの素顔が顕れる。
深く、暗い、憎しみの瞳。
慈悲も、容赦も、躊躇いもない。
彼女から大切な人を奪った全てを焼き尽くさんとする復讐者としての素顔だった。
「――くふ」
アルカは懐かしいものを見たように、薄く笑う。
コレだ。
アルカが彼女に目をつけた理由。
全盛期の頃ならいざ知らず、今のアルカを認識できる存在は限られている。
聖剣に宿る意志であるアルカを認識するための条件は二つ。
一、始まりの契約者である聖王国初代国王の血を引いていること。
ニ、聖剣の欠片を基に造られた〝至剣〟の所有者であること。
アルカを認識できる数少ない人間の中で当時まだ子供だったユフィを選んだのは、彼女があらゆる手段を行使してでも目的を達成することが出来る人間だと確信したからだ。
自らの願いを果たすためなら他の一切を顧みないその狂気。
夜空の月を掴むほど遠い彼女たちの願いを果たすためには、それが必要だったのだ。
事実ユフィは己の目的のため、聖王の死後、空位となったこの国の玉座までをも奪い取ってみせた。
「……やはり、あの少年が〝そう〟なのですね」
「ああ。その通りだよ」
ユフィの問いをアルカはあっさりと肯定する。
隠すまでもないと。
その瞬間、ユフィの美貌が狂喜に歪んだ。
そうだ。
そうでなければ説明がつかない。
あの時、ソラの魔力はユフィの魔力と完全に同調した。
魔力の色は魂の色。
カイラードと同じ黄金の魔力。
十年前のあの日、失われた王の魂が再びこの世界に還ってきたのだ。
「心は、変わっていないみたいだね」
「ええ」
ユフィは迷いなく首肯する。
脳裏に蘇るのは、先ほどまでのソラとの邂逅。
当たり前だけれど、ソラはユフィのことを何一つ憶えていなかった。
ソラの前では取り乱すような愚は犯さなかったけれど、何一つ憶えていないというのは少なからず堪えた。
けれど、それは始めから解っていたことではあったし――それ以上に嬉しかった。
だって、涙が出てしまうくらいに変わっていなかったから。
真っ直ぐに前を見据えるあの強い瞳も。
諦めることを知らず、何度でも立ち上がるあのひたむきさも。
たとえ姿形が変わろうとも、過去の記憶の一切が失われていようとも、その気高き魂の在り様は色褪せてなどいなかった。
「変わらない。変わるものか。あの雪の日から、この心はずっとあの人だけを求めている。焦がれて、焦がれて、焦がれ続けてッ。あの人だけが私の世界のすべて。今度こそ掴み取ってみせる。あの日奪われたすべてを取り戻す。そのために、私はこの十年を耐えてきたのだから――ッ!」
「~~~ッッ」
燃え盛る劫火の如きその熱量に、ぞくぞくと、実体のないはずのアルカの身体が震えた。
十年の間に膨れ上がったこの熱がこの街に何をもたらすのか解らない。
果たして彼女の願いが結実するのか、あるいは絶望の中に潰えるのか、人外の存在であるアルカにすら解らない。
だが、その先に待つものがたとえ破滅だったとしても、彼女は最後の一瞬まで決して立ち止まることはないだろう。
そして、この熱はきっとあの少年の中の何かを変える。
その確信がある。
あまりにも退屈だった微睡みの十年が終わり、時代が再び動き出す予感にアルカの口角が吊り上がった。
――それでこそだ。
「ああ。ならば見せてくれ。キミの紡ぐ物語を。彼の物語を。あの日途切れた英雄譚の続きを。キミが彼と再会するためにこの十年を生きてきたように、ボクもそれを間近で見られることをずっと心待ちにしていたのだから」
アルカは大きく手を広げ、ユフィの願いを祝福する。
十年前より託された祈りは時を超え、この場所まで辿り着いた。
成就まであと僅か。
止まっていた運命の歯車は再び回り始める。
「いますね、アストレア」
「――は」
アルカが去り、再び一人になった夜の闇にユフィは呼びかけた。
いつの間にか、闇の向こうに彼女にとってはよく見知った人物が跪いている。
大樹を思わせる翠緑の髪を持った美しい女だった。
細い体躯を包む白の騎士装束に腰に佩いた黄金の短剣。その柄頭には〝Ⅷ〟の刻印が刻まれている。
凛冽な空気を纏うその佇まいはまさに物語に登場する女騎士そのものだった。
アストレアは顔を上げ、露わになったその翡翠色の眼差しを真っ直ぐにユフィへと向ける。
「話は聞いていましたね」
「ええ」
ユーフィリアの言葉に、アストレアと呼ばれた女は恭しく応じる。
彼女もまたアウローラと同じ『至剣』の所有者。
アルカの存在を知覚することのできる数少ない人間の一人。
陰に徹しながらユフィの護衛を務めていたアストレアは先ほどまでの会話を委細漏らさず聞いていた。
「始めますよ。覚悟はいいですね?」
「はい」
アストレアの凛とした声が空気を断ち切るように夜闇に響く。
「私が求めるものは今も昔も変わりません。あの方に仕え、あの方のために戦う。聖王の御旗の下、あの方の剣として忠節を尽くす。それのみが私が自らに定めた存在意義。我が力。我が忠義。どうぞ存分にお振るいください。我らの道を阻む者、その悉くを討ち滅ぼしてみせましょう」
「それが、かつての戦友であったとしても?」
「無論です」
アストレアは断言する。
その双眸にはかつての戦友に対する隠しきれぬ怒りと侮蔑の感情があった。
「彼女は逃げ出しました。あの方の死から。己の罪から――全てを投げ捨てて背を向けた逃亡者です。そのような者を私は戦友とは認めない。ただの逃亡者と成り下がった者を討つことに如何ほどの痛痒がありましょうか」
アストレアの殺意が研ぎ澄まされていく。
重く、鋭く、濃密で冷たい殺意。
かつて聖王と共に伝説を築き上げた、世界最強の遣い手の一角。
かつてカイラードは己の為すべきことを為し、世界を救った。
紛れもなく正しいことを為した。
けれど正しさはユフィの大切な人を救わなかった。
故にユフィは仁義や道徳、正義といったものに一切の興味がない。
何かを為すのに必要なのは想いの強さ。
そして、たとえ他の何を犠牲にしようとも己の目的を果たすというその覚悟だ。
ユフィは今はもう過ぎ去ってしまった遠い日の面影を思い出す。
暖かい日差しの中で、眩しく輝く愛しい人の笑顔を。
やがてユフィは眼前に控える騎士に傲然とその命を下す。
「――よろしい。では、『聖焔騎士団』第八席〝星弓〟アストレア=ヴァン=スターライトに命ずる。背信の騎士アウローラ=ヴァン=エヴァーフレイムを我が前に引き立てよ」
「承知しました。アルカディア聖王国第九十七代国王ユーフィリア=ロア=ブライトクロイツ=フォン=アルカディア陛下」
―――斯くして。
月光の狂気と翡翠の騎士は互いの覚悟に応え、それぞれの願いを果たすため、行動を開始した。
彼女――ユフィは誰もいない屋上で一人、月を眺めていた。
観光都市らしくこの時間にも街には街灯が灯り人々の姿で賑わっているが、その喧騒はここには届かない。
都合が良かった、とユフィは思う。
元々彼女は騒がしいのを好まないし、何よりも彼女の〝正体〟が知れてしまえば、きっと大騒ぎになってしまうだろうから。
ユフィは夜空に浮かぶ月を何をするでもなくただ見上げている。
彼女は月を眺めるのが好きだった。
昔、彼女の兄と共に見上げた大切な記憶を思い起こすことができるから。
「こんばんは。良い月だね」
不意に声をかけられ、ユフィは後ろを振り返った。
その存在を視界に収めて微笑する。
「ええ。お久しぶりです、アルカ様。十年ぶりですね」
挨拶を返すと、人ならざる聖霊はなぜか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「? なんでしょう?」
「……いや、うっすい反応だなと思って。十年ぶりの再会だよ? もうちょっと驚いたりとかしないの? まるで近所の知人に偶然出会したみたいな反応じゃないか」
「ああ、そういうことですか。もちろん驚いておりますよ。ただなんとなく、そろそろいらっしゃるだろうなとは思っていましたから」
だから、それほど意外でもなかった、とユフィはしっとりと言った。
アルカはぶすくれるように唇を尖らせる。
「……つまらないなあ。当時から異常に敏い子だとは思ってたけど、この十年でさらに磨きがかかったみたいだね。まったく揶揄い甲斐のない」
「恐れ入ります。アルカ様は……なんだかとても幼い姿になられましたね」
「聖剣を折られた影響でね。この姿を顕現できるようになったのもつい最近さ。てか、この説明はさっきアウローラにもしたんだけどね」
アウローラの名を出した瞬間、ユフィの表情から波のように、さあ、と感情が引いていく。
思惑通りの反応にアルカは意地悪く、にやり、と笑った。
「どうかしたのかい? なんだか怖い顔になってるけど」
「……相変わらずお人が悪い。あの女の名前を出せば私がどういう反応をするかなど、解りきっていたことでしょうに」
じとりと言うと、アルカはさも愉しそうに声を上げた。
「ごめんごめん。せっかくこうして顔を合わせているのに取り繕った言葉と表情じゃあまりにも味気ないだろう? 遠慮はいらない。本性を出しなよ」
聖霊はこれ以上ないという、挑発的な笑みを浮かべた。
両者の視線がぶつかり合う。
ユフィは俯き、小さく息を吐いた。
そして次の瞬間、ぞわりと空気が変わった。
この場に他の者がいたら、あまりの重圧に背筋が凍っていただろう。
顔を上げたその時、ユフィの瞳の輝きは消失していた。
万人が美しいと感じるであろう笑顔が剥がれ落ち、ユフィの素顔が顕れる。
深く、暗い、憎しみの瞳。
慈悲も、容赦も、躊躇いもない。
彼女から大切な人を奪った全てを焼き尽くさんとする復讐者としての素顔だった。
「――くふ」
アルカは懐かしいものを見たように、薄く笑う。
コレだ。
アルカが彼女に目をつけた理由。
全盛期の頃ならいざ知らず、今のアルカを認識できる存在は限られている。
聖剣に宿る意志であるアルカを認識するための条件は二つ。
一、始まりの契約者である聖王国初代国王の血を引いていること。
ニ、聖剣の欠片を基に造られた〝至剣〟の所有者であること。
アルカを認識できる数少ない人間の中で当時まだ子供だったユフィを選んだのは、彼女があらゆる手段を行使してでも目的を達成することが出来る人間だと確信したからだ。
自らの願いを果たすためなら他の一切を顧みないその狂気。
夜空の月を掴むほど遠い彼女たちの願いを果たすためには、それが必要だったのだ。
事実ユフィは己の目的のため、聖王の死後、空位となったこの国の玉座までをも奪い取ってみせた。
「……やはり、あの少年が〝そう〟なのですね」
「ああ。その通りだよ」
ユフィの問いをアルカはあっさりと肯定する。
隠すまでもないと。
その瞬間、ユフィの美貌が狂喜に歪んだ。
そうだ。
そうでなければ説明がつかない。
あの時、ソラの魔力はユフィの魔力と完全に同調した。
魔力の色は魂の色。
カイラードと同じ黄金の魔力。
十年前のあの日、失われた王の魂が再びこの世界に還ってきたのだ。
「心は、変わっていないみたいだね」
「ええ」
ユフィは迷いなく首肯する。
脳裏に蘇るのは、先ほどまでのソラとの邂逅。
当たり前だけれど、ソラはユフィのことを何一つ憶えていなかった。
ソラの前では取り乱すような愚は犯さなかったけれど、何一つ憶えていないというのは少なからず堪えた。
けれど、それは始めから解っていたことではあったし――それ以上に嬉しかった。
だって、涙が出てしまうくらいに変わっていなかったから。
真っ直ぐに前を見据えるあの強い瞳も。
諦めることを知らず、何度でも立ち上がるあのひたむきさも。
たとえ姿形が変わろうとも、過去の記憶の一切が失われていようとも、その気高き魂の在り様は色褪せてなどいなかった。
「変わらない。変わるものか。あの雪の日から、この心はずっとあの人だけを求めている。焦がれて、焦がれて、焦がれ続けてッ。あの人だけが私の世界のすべて。今度こそ掴み取ってみせる。あの日奪われたすべてを取り戻す。そのために、私はこの十年を耐えてきたのだから――ッ!」
「~~~ッッ」
燃え盛る劫火の如きその熱量に、ぞくぞくと、実体のないはずのアルカの身体が震えた。
十年の間に膨れ上がったこの熱がこの街に何をもたらすのか解らない。
果たして彼女の願いが結実するのか、あるいは絶望の中に潰えるのか、人外の存在であるアルカにすら解らない。
だが、その先に待つものがたとえ破滅だったとしても、彼女は最後の一瞬まで決して立ち止まることはないだろう。
そして、この熱はきっとあの少年の中の何かを変える。
その確信がある。
あまりにも退屈だった微睡みの十年が終わり、時代が再び動き出す予感にアルカの口角が吊り上がった。
――それでこそだ。
「ああ。ならば見せてくれ。キミの紡ぐ物語を。彼の物語を。あの日途切れた英雄譚の続きを。キミが彼と再会するためにこの十年を生きてきたように、ボクもそれを間近で見られることをずっと心待ちにしていたのだから」
アルカは大きく手を広げ、ユフィの願いを祝福する。
十年前より託された祈りは時を超え、この場所まで辿り着いた。
成就まであと僅か。
止まっていた運命の歯車は再び回り始める。
「いますね、アストレア」
「――は」
アルカが去り、再び一人になった夜の闇にユフィは呼びかけた。
いつの間にか、闇の向こうに彼女にとってはよく見知った人物が跪いている。
大樹を思わせる翠緑の髪を持った美しい女だった。
細い体躯を包む白の騎士装束に腰に佩いた黄金の短剣。その柄頭には〝Ⅷ〟の刻印が刻まれている。
凛冽な空気を纏うその佇まいはまさに物語に登場する女騎士そのものだった。
アストレアは顔を上げ、露わになったその翡翠色の眼差しを真っ直ぐにユフィへと向ける。
「話は聞いていましたね」
「ええ」
ユーフィリアの言葉に、アストレアと呼ばれた女は恭しく応じる。
彼女もまたアウローラと同じ『至剣』の所有者。
アルカの存在を知覚することのできる数少ない人間の一人。
陰に徹しながらユフィの護衛を務めていたアストレアは先ほどまでの会話を委細漏らさず聞いていた。
「始めますよ。覚悟はいいですね?」
「はい」
アストレアの凛とした声が空気を断ち切るように夜闇に響く。
「私が求めるものは今も昔も変わりません。あの方に仕え、あの方のために戦う。聖王の御旗の下、あの方の剣として忠節を尽くす。それのみが私が自らに定めた存在意義。我が力。我が忠義。どうぞ存分にお振るいください。我らの道を阻む者、その悉くを討ち滅ぼしてみせましょう」
「それが、かつての戦友であったとしても?」
「無論です」
アストレアは断言する。
その双眸にはかつての戦友に対する隠しきれぬ怒りと侮蔑の感情があった。
「彼女は逃げ出しました。あの方の死から。己の罪から――全てを投げ捨てて背を向けた逃亡者です。そのような者を私は戦友とは認めない。ただの逃亡者と成り下がった者を討つことに如何ほどの痛痒がありましょうか」
アストレアの殺意が研ぎ澄まされていく。
重く、鋭く、濃密で冷たい殺意。
かつて聖王と共に伝説を築き上げた、世界最強の遣い手の一角。
かつてカイラードは己の為すべきことを為し、世界を救った。
紛れもなく正しいことを為した。
けれど正しさはユフィの大切な人を救わなかった。
故にユフィは仁義や道徳、正義といったものに一切の興味がない。
何かを為すのに必要なのは想いの強さ。
そして、たとえ他の何を犠牲にしようとも己の目的を果たすというその覚悟だ。
ユフィは今はもう過ぎ去ってしまった遠い日の面影を思い出す。
暖かい日差しの中で、眩しく輝く愛しい人の笑顔を。
やがてユフィは眼前に控える騎士に傲然とその命を下す。
「――よろしい。では、『聖焔騎士団』第八席〝星弓〟アストレア=ヴァン=スターライトに命ずる。背信の騎士アウローラ=ヴァン=エヴァーフレイムを我が前に引き立てよ」
「承知しました。アルカディア聖王国第九十七代国王ユーフィリア=ロア=ブライトクロイツ=フォン=アルカディア陛下」
―――斯くして。
月光の狂気と翡翠の騎士は互いの覚悟に応え、それぞれの願いを果たすため、行動を開始した。
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