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4th day
過去④
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―――時は瞬く間に過ぎ去っていく。
多くの戦場を駆け抜けた。
王と共に、戦友と共に。
聖王の御旗の下で多くの戦場を戦い抜いてきた。
少女が彼に賜った銘は〝覇軍〟。
ただ一騎にて千の敵を屠る、文字通り、一騎当千の大戦力。
その力で、少女は屍山を築き、血河を渡り、数多の死線を潜り抜けてきた。
すべては、彼が夢見た世界へと辿りつくために。
この果てなき争いの――その先へ至るために。
そうして剣を振るい続けて、戦場の恐怖に身を竦ませることも無くなった頃、いつしか少女たちの名は、遍く世界に轟くことになる。
―――『聖焔騎士団』
其はかの誉れ高き〝聖王〟を守護せし、九つの護剣なり。
誇らしかった。
誰にも省みられることのなかった自分が、他の有象無象に認められたことがじゃない。
彼を守る剣の一振りで在れることが、ただ誇らしかった。
あの日の誓い通り、自分は彼の力になれているのだと、そう実感することができた。
けれど、だからこそ少女は失念していた。
弱肉強食は世の理。
強き者はより強き者によって喰われるのが戦場の摂理。
彼女たちは紛れもなく強者ではあったけれど、無敵ではなかった。
最初に犠牲になったのは第五席だった。
少女たちが駆けつけたときには全てが終わっていた。
魔獣の軍勢により破壊された城塞。
そこにあったものは夥しいまでの血の海と、無残にも切り刻まれ、噛み砕かれ、引き裂かれた戦士たちの亡骸。
大気に溶けることなく充満する血臭と破壊の爪痕がその戦場の壮絶さを物語る。
静かな空に耳を澄ませば、騎士たちの怒号が今にも木霊してきそう。
そして、黎明に染まりはじめた空の下に、第五席の亡骸があった。
第五席はどこか、変わった女性だった。
名門貴族の出でありながら、少女のような下層階級出身の者にも分け隔てなく接する、世間知らずで、お節介で、どこか抜けていて。
――そして、優しい人だった。
少女は彼女から戦い方以外にも多くの事を教わった。
調理の方法や食事のマナー。
騎士としての礼から立ち居振る舞い、化粧に至るまで様々なことを。
正直、そのお節介を煩わしいと思ったこともあるし、彼女の持つ〝女性らしさ〟に嫉妬したこともある。
けれど確かに、共に過ごす時間を楽しいと感じていたのだ。
彼女の死を目にしたその瞬間、少女は理解する。
意地っ張りなせいで、最後まで口にすることは出来なかったけれど……親も兄弟もない少女にとって、彼女はまさしく――姉のような存在だったのだと。
彼は彼女の亡骸をきつく抱きしめ、慟哭する。
また、守れなかったと涙を流す。
その光景を見て、少女の胸に悲しみが去来する。
痛みが去来する。
そして、羨望が芽生えた。
主君のために生きて。
主君のために戦って。
そして、主君の胸に抱かれて眠りにつく。
それはなんて幸福な生き方で――幸福な終わり方なのだろう、と。
――ああ、愛しい主よ。
だから、どうか泣かないで。
彼女と同じ夢を見て、同じ想いを共有した私が知っている。
彼女は決して、貴方と共に歩んだ道を悔いてなどいなかった。
貴方の優しさが傷ついた私たちの心を癒し、貴方の祈りが散りゆく私たちの魂を安息の地へと導いてくれる。
第五席の生き様が、それを証明してくれた。
貴方こそが、この昏い夜の闇を切り裂く、眩く美しい暁の光そのものなのだと―――。
多くの戦場を駆け抜けた。
王と共に、戦友と共に。
聖王の御旗の下で多くの戦場を戦い抜いてきた。
少女が彼に賜った銘は〝覇軍〟。
ただ一騎にて千の敵を屠る、文字通り、一騎当千の大戦力。
その力で、少女は屍山を築き、血河を渡り、数多の死線を潜り抜けてきた。
すべては、彼が夢見た世界へと辿りつくために。
この果てなき争いの――その先へ至るために。
そうして剣を振るい続けて、戦場の恐怖に身を竦ませることも無くなった頃、いつしか少女たちの名は、遍く世界に轟くことになる。
―――『聖焔騎士団』
其はかの誉れ高き〝聖王〟を守護せし、九つの護剣なり。
誇らしかった。
誰にも省みられることのなかった自分が、他の有象無象に認められたことがじゃない。
彼を守る剣の一振りで在れることが、ただ誇らしかった。
あの日の誓い通り、自分は彼の力になれているのだと、そう実感することができた。
けれど、だからこそ少女は失念していた。
弱肉強食は世の理。
強き者はより強き者によって喰われるのが戦場の摂理。
彼女たちは紛れもなく強者ではあったけれど、無敵ではなかった。
最初に犠牲になったのは第五席だった。
少女たちが駆けつけたときには全てが終わっていた。
魔獣の軍勢により破壊された城塞。
そこにあったものは夥しいまでの血の海と、無残にも切り刻まれ、噛み砕かれ、引き裂かれた戦士たちの亡骸。
大気に溶けることなく充満する血臭と破壊の爪痕がその戦場の壮絶さを物語る。
静かな空に耳を澄ませば、騎士たちの怒号が今にも木霊してきそう。
そして、黎明に染まりはじめた空の下に、第五席の亡骸があった。
第五席はどこか、変わった女性だった。
名門貴族の出でありながら、少女のような下層階級出身の者にも分け隔てなく接する、世間知らずで、お節介で、どこか抜けていて。
――そして、優しい人だった。
少女は彼女から戦い方以外にも多くの事を教わった。
調理の方法や食事のマナー。
騎士としての礼から立ち居振る舞い、化粧に至るまで様々なことを。
正直、そのお節介を煩わしいと思ったこともあるし、彼女の持つ〝女性らしさ〟に嫉妬したこともある。
けれど確かに、共に過ごす時間を楽しいと感じていたのだ。
彼女の死を目にしたその瞬間、少女は理解する。
意地っ張りなせいで、最後まで口にすることは出来なかったけれど……親も兄弟もない少女にとって、彼女はまさしく――姉のような存在だったのだと。
彼は彼女の亡骸をきつく抱きしめ、慟哭する。
また、守れなかったと涙を流す。
その光景を見て、少女の胸に悲しみが去来する。
痛みが去来する。
そして、羨望が芽生えた。
主君のために生きて。
主君のために戦って。
そして、主君の胸に抱かれて眠りにつく。
それはなんて幸福な生き方で――幸福な終わり方なのだろう、と。
――ああ、愛しい主よ。
だから、どうか泣かないで。
彼女と同じ夢を見て、同じ想いを共有した私が知っている。
彼女は決して、貴方と共に歩んだ道を悔いてなどいなかった。
貴方の優しさが傷ついた私たちの心を癒し、貴方の祈りが散りゆく私たちの魂を安息の地へと導いてくれる。
第五席の生き様が、それを証明してくれた。
貴方こそが、この昏い夜の闇を切り裂く、眩く美しい暁の光そのものなのだと―――。
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