馬鹿のいない世の中

oniony

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馬鹿のいない世の中

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馬鹿は死んだ。

過激な優生思想が流行した十二年前、日本では大掛かりな間引きが行われた。
三歳の時点で強制に受けさせられる知能検査で一定のスコアを出せなかった幼児は「馬鹿」とされ、強制的に「転生部屋」へと送られて殺された。
私の息子も二人「転生部屋」へと連れていかれた。
残ったのは妻と一人の娘だけだった。

そこから六年後、知能検査は国民全員の義務となった。
当然スコアの低いものは「転生部屋」送りとなった。
人口は全盛期の半分以下となり、この政策も緩和されるものだと誰もが考えた。
しかしその翌年、「馬鹿」の基準が引き上げられることが政府から発表された。

私は「馬鹿」だった。

妻と娘には秘密にした。賢い妻のことだ、私が「馬鹿」だというのは気づいていたのだろうがそのことについては一切触れなかった。
娘は今年で15歳になる。
知能指数も運動能力も平均以上だしこのままいけば大学にも行けるだろう。
そう思うとほんの少しは気が楽だった。

お迎えの日程は人によってばらつきがあり個人にしか通知がいかないため、私が今日死ぬということは妻や娘にはもちろん他の誰にも言っていない。
遺書を残し二人に気づかれないように家を出たところで二人組の若い青年に声をかけられた。

「お迎えに参りました」

転生部屋へと連れていかれる前に私が聞いたのは「馬鹿」の基準の引き上げのニュースと娘の短い悲鳴だった。
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