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しおりを挟む「フィミリアお嬢様、サミエル様とはお話出来ましたか?」
馬車へ乗り込み、帰宅する道すがら同乗した侍女、ミアからそう問われフィミリアは困ったように眉根を下げる。
「…いいえ。私以外にも聖女様の帰還を待っていた王都の群衆で、人垣の向こうにサミエル様を拝見出来たくらいよ。」
「まあまあまあ!フィミリアお嬢様はサミエル様の婚約者なのですから、そのような場所からではなく、もっときちんとした場でお会い出来ると思っていたのですが…」
侍女のミアは腑に落ちないようで、ぷりぷりと憤りを顕にしながらせっかくのお会い出来る機会だったのに!と息巻いている。
自分以上に怒ってくれる侍女に嬉しく思いながら、フィミリアは仕方ないのよ、と唇を開く。
「お会い出来なかったのは残念だったけれど、きっと次の出立までは時間はあると思うの。サミエル様からも連絡が来ると思うし…、お会い出来た時に色々とお話するわ。」
「フィミリアお嬢様がそう仰るならいいのですが…」
まったく、サミエル様もお嬢様がせっかくいらしているのだから群衆の中から見つける位して下さらないと!
と未だにぷりぷりと言葉を零すミアに、フィミリアは落ち込んでいた気持ちが少し晴れるのを感じる。
屋敷への道中、ミアを宥めながら世間話も交え
沈んでいた気持ちでいたままにならなかった事にフィミリアはミアへと胸中で感謝した。
フィミリアの子爵家であるハーツウィル家は、豊かな土壌と豊富な色彩の花々で、作物と花々から抽出した着色料で布を染め独自の織物を領内で加工し特産物として販売し、収入を得ている。
独自の加工技術は類を見ない物で、特産物に付加価値が掛かり豊富な収入を得ていた。
独自な加工技術はフィミリアが幼少期に閃いたアイデアを領主である祖父に気に入ってもらい、祖父が下地を作り、父が形を成した。
それから、作物だけで何とか凌いでいた領地の収入が増え今では爵位は子爵ではあるが、爵位が上の伯爵、あまり裕福ではない侯爵家よりも資産を持つまでに至った。
幼少より両親からは可愛がられていたフィミリアではあるが、アイデアのお陰で領地経営が軌道に乗り、豊かな資産を得るまでになった。そんなフィミリアの事を今では対等に、一人の大人として扱ってくれる。
出来れば両親に心配はかけたくなかったが、こんな気持ちのまま自分はサミエルの婚約者のままでいていいのか、本当に心から思う相手がいるのであればサミエルの為に自分は身を引いた方がいいのか…。
自分一人で考えていても答えが出そうに無い為、フィミリアは帰宅したら両親へ相談してみよう、と馬車の窓から流れる景色を眺めながらそっと瞳を閉じた。
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