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激しい複数の足音と、怒声が聞こえてくる。
その声にいち早く反応したのはフィミリアの腰の間にいた男で、低く舌打ちをすると寛げたトラウザーズを締め直しその場に立ち上がった。
「お前ら!見つかったみたいだ、逃げる準備をしろ!」
「くそっ!もうすぐイきそうだったのに!」
「畜生が!めちゃくちゃに犯してやりたかったのによぉ!」
「いつもみてぇに他の女も味わえねぇとはな!」
フィミリアを犯していた男から声を掛けられた男達は慌てたようにわたわたと自分達の姿を整え始めた。
部屋の中は、女性の啜り泣く声やうわごとのように拒否する言葉を呟き続ける女性の言葉がばたばたと騒がしく動き始める男達の音に紛れて聞こえて来る。
確かに、フィミリアは自分の耳にその音達が聞こえているのに、女性達の安否を確認しに行く事も自分の体を動かす事も出来ず、ただただぼうっと虚空を見つめる。
数瞬後、「ここだ!」という叫び声が聞こえたと同時に部屋の扉が蹴破られ、複数の人影がなだれ込んできた。
一拍置いて、誰かが自分の名前を悲鳴じみたその声音で叫んだように感じた。
サミエルは、テラスから降り立った後自分の第二師団の部下を引き連れ裏庭で光り輝くその宝石の軌跡を必死に駆けながら辿っていた。
これが、フィミリアのドレスに付いていた宝石だといつも彼女の側にいた侍女が言っていた。
侍女が言うのであれば、間違いないだろう。
フィミリアは、攫われて恐怖に怯える状態だったに違いない。それなのに何か手掛かりを残そうと必死に考え、縫い付けられた宝石を引きちぎり地面に落として行ったのだろう。
もし攫った者に見つかれば殺されていた可能性もあった。
けれど、しっかりとその時自分に出来る最善の方法を選び実行した。
サミエルはフィミリアのその時の心情を想い、低く唸る。
(俺、が…!俺が聖女様ではなくフィミリアの側にいたら!まだ、俺が彼女の婚約者の立場であったなら…!!)
自分でその機会を逃したのだ。
サミエルは逸る気持ちのまま、駆ける速度を上げた。
裏庭を駆け抜けると、その宝石がガボぜへと続いている。
そのガボゼの先には、邸の裏口だろうか。
花壇の花々の奥に目立たぬようひっそりと作られた裏口を発見する。
そこで、宝石の道標は終わっていた。
サミエルは付いてきた部下達に手信号でその場で待機を命じると、腰元の剣に手をかけながら裏口の横に移動し、ドアノブに手を掛けた。
「……っ」
一呼吸置いて、勢い良く扉を内側に開ける。
誰か犯罪組織の一味でも出てくるか、と思ったが誰の気配も感じれなく、サミエルは室内への侵入を指示する。
邸の中へと入ると、そこは本邸ではなく本邸から少し離れた別邸のようだ。
中へ入り、磨かれた床を凝視すると裏庭を通って来たからだろう、所々泥に縁取られた足跡が点々と奥へと続いている。
この奥で当たりのようだ。
「二人はこのまま俺と行動を共にして、一人はフィミリアの家族、ハーツウィル子爵の元へと行き、この場所を案内してくれ」
「了解しました!」
サミエルは的確に指示を飛ばすと、そのまま二手に別れた。
息が上がって、苦しい。
けれど、フィミリアはこれ以上に苦しい思いをしているのかもしれない。
喉が張り裂けようとも、肺が破裂しようとも、今この足を止める事は出来ない。
フィミリア!フィミリア!どうか無事でいてくれ!、と胸中で必死に叫ぶ。
足を進めていると、微かに女性の甲高い叫び声が前方から聞こえてくる。
サミエルは、その声が聞こえてくる場所へと駆ける速度を上げた。
「この先から複数の女性の声が聞こえる!戦闘の準備をしておけ!」
「はいっ!」
「了解しました!」
後ろに続く部下二人に叫び、女性達の叫び声が聞こえる方向へひた走る。
その声が、大きくなってきて、眼前の通路の端にある扉の向こうから叫び声が聞こえている。
「ここだ!抜刀しておけ!」
サミエルは続けて自分も剣を鞘から抜き放ち、その悲鳴が聞こえる部屋の扉をその駆けている勢いのまま蹴破った。
蹴破った先に広がる光景に、サミエルは自分の目を疑った。
複数の女性達が、男達に犯されているその目を背けたくなるような光景に一瞬唖然とするが、
視界の端に良く見知ったピンクブロンドの髪の毛が床に散らばっている状況を見て、サミエルはフィミリアの名前を叫んで慟哭した。
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