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第八十三話

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ネウスの言葉に、皆が重苦しい空気の中「ならば、何故」と考え込んでいると、その沈黙の中ランドロフが唇を開く。

「魔者……?魔者に、なると言うのか……?それならば、父上は騙されていると言う事か……?誰に、何の為に……?」

ランドロフの言葉に、ミリアベルやノルトは黙ってしまう。
教会からその方法を教えられた、と言う事は十中八九教会の人間が絡んでいるのだろう。
だが、それが一体誰なのか、どれだけの人数が絡んでいるのかが分からない。

「──そう言えば、」

と、そこでノルトがふと思い出したかのように、ネウスと戦った後の王城で教会の大司教が何故か王城に居り、ノルトからネウスの魔力を抽出出来ないか気にしていた事を思い出す。

「俺が意識を失っていると思っていたんだろう、教会の大司教が治癒士にネウスの魔力を俺から抽出出来ないか、気にしていたな。治癒士はそんな事をしたら俺の体がもたない、と言っていたから末端の治癒士等は無関係だろう」
「待て、俺の魔力だと?」

ノルトの言葉を聞いて、ぴくりとネウスが反応すると、難しい顔をして何かを考えた後、はっとしてミリアベルに視線を向けると、怒りを顕にして唇を開いた。

「甦りの術を使うと、死魔者アンデッドを作り出す。それは最早俺たちに近い存在だ……だからこそ俺達──俺の魔力を媒介にして作ろうとしてたんだろう。同じ種族の者の魔力の方が吸収は早いし、結び付きやすい。そして、甦らせる魔力の元には相乗効果が出やすい魔力が豊富で特殊な聖魔法の使い手の魔力をぶち込むつもりだろうよ」
「──聖魔法、を……ですか!?」

魔の者が使用する闇魔法と相反する魔法は聖魔法だ。いくら闇魔法を媒介にするだけとは言え、相反する種別の魔法をそこに入れ込んだら相殺されてしまうのではないだろうか。
その考えは、ミリアベル以外にも室内にいた全員が考えたようだ。

「それ、は……魔力量が豊富な人の魔力を使うと言うのはまだ分かりますが、闇魔法と聖魔法を一緒にしてしまったら相殺されて、消滅してしまいませんか?」

ミリアベルの言葉に、ネウスは静かに首を振ると唇を開く。

「いや……確かにお互い弱点同士の真逆な性質ではあるが、消滅はしない。真反対の属性同士を掛け合わせると威力が膨れ上がる」

試してみるか?とネウスがそう言うとソファから立ち上がり、ミリアベルの手を取ると窓際へとミリアベルを引っ張り歩いて行く。

「え?えっ、ネウス様?」
「いいか、下地は俺が作る。ミリアベルはただ俺が発動した魔法に聖魔法を重ねるだけでいい」

戸惑うミリアベルに、ネウスは何て事のないように言うと、窓を開けて宿舎の周りを見渡す。
「丁度いい木があった」と呟くと、ネウスは窓の外に向かって自分の指先をぴんっと弾くと真っ黒く、禍々しい雫程の球体を作り出す。

心配そうにネウスとミリアベルの様子を見るノルト達には気も止めず、ネウスは「ほら」と真っ黒な雫に向かって顎をしゃくると、ミリアベルは戸惑いながらネウスの言う通り小さな小さな同じくらいの大きさの雫を聖魔法で作り出すと、ネウスが魔法で作り出した黒い雫に重ねる。
重ねた、瞬間。

禍々しい真っ黒な雫だった物に、ミリアベルの放った真っ白に輝く雫が溶けて混ざり合うように変形し、姿を変えて行く。
何とも言えないゾッとするような輝きを持ったその雫は、ネウスがつい、と指先を動かすと正面にあった木を目掛けて進んで行き、成り行きを見守っている面々の目の前で木に触れたミリアベルとネウスの魔法はじゅわり、と真っ黒い影で木全体を飲み込んだ後、真っ白い光を放ち、一瞬で消滅した。

「──は?」

室内に居た誰の声だろうか。
誰かが、呆気に取られたような声を出して、ノルトやカーティス、ランドロフが窓際に足早にやってくる。

「なん、だ……今の……」
「溶けた、のか?溶けた後、完全に一瞬で消滅したぞ」

ノルトとカーティスが信じられない、と言うように窓枠に両手を置いて外に乗り出す。
二人の目の前には、最初から木の存在等なかったかのように綺麗にその存在そのものが消滅していて、二人は驚きに目を瞬かせている。

ノルトとカーティス程、食い入るようには見ていないが、ランドロフは窓際から離れた場所で呆然と立ちすくみ、嫌な汗を顬からつうっと一筋流して唇を開く。

「──今のは、雫程の小さな球体、だったよな……?あの大きさで、この威力か……?」

 雫でこれ程であれば、ネウスとミリアベルの魔力を良くない人間が手にしたら一体どうなってしまうのだろうか。

「だから言っただろう?まあ、魔の者と人間の魔力を掛け合わせる何て方法まともな人間の考える方法じゃないけどな……しかも禁術と言われている死者甦りの魔法は全くの偽物だ」

ネウスはひょい、と肩を竦めるとどうしたもんかな、と呟きながらソファへと戻って行く。

ミリアベルは、未だに消滅してしまった木が植わっていた場所を信じられない思いでただただじっと見つめる。

(これ、は……聖魔法はとても危険な魔法でもあるのね……)

実際目の前で起きた現象に、今でもぞくりとした悪寒が消えない。
禍々しい色をした雫が、自分の聖魔法と重ね合わさった瞬間、更に形容し難い怖気を放つ物へと変化し、その魔法に触れた瞬間に存在すらなかった物のように消滅した。

ミリアベルは、自分の魔力は絶対に人の手に渡らないようにしなければ、と強く心の中で思うと窓から視線を外し、皆が座っているソファへと戻って行った。
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