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しおりを挟む「──えっ、!?」
「な、何故そのような……!」
突然リスティアナから告げられた言葉に、アイリーンもティファも驚きに目を見開き、「嫌ですわ!」と声を荒らげる。
アイリーンは、リスティアナがそのような行動を取る意味に思い至ったのだろう。
リスティアナを安心させるように自分の胸に手を当てて力強く言葉を紡ぐ。
「リスティアナ嬢は、私とティファ嬢の家の事をご心配頂いているようですが、問題ありません……! 横の繋がりは……っ、お二人の侯爵家に比べれば敵いませんが、我がハーディング伯爵家は貴族としての礼節や礼儀を重んじる家門……! 品の無い噂話に興じる貴族達や貴族としての矜恃の無い人物には屈しません……!」
アイリーンの言葉で、何故リスティアナが先程の言葉を紡いだのか理解したのだろう。
ティファも力強く頷く。
「アイリーン嬢の仰る通りですわ! 我がハナム子爵家も、その……高位貴族の皆様と比べてしまうとマナーや教養などお恥ずかしい結果となってしまいますが、それでも貴族として生まれ育ち、貴族の在り方と言う物を理解しております! 貴族として情けない行動をする者とは相容れません!」
アイリーンも、ティファも例えリスティアナの立場が悪くなろうとも、学園内で過ごし辛くなろうとも変わらず側に居る、と言う事を力強く口にしてくれる。
そんな二人にリスティアナは感謝しつつ、だがそれでも小さく首を横に振った。
「──お二人のお気持ちはとても嬉しくて、私もお二人と変わらずコリーナと私と四人で過ごしたいと考えております……。ですが……水面下で争っていた反王政派と、王政派が表立って対立を始めてしまったら……? そこに、万が一他国が絡んできてしまったら……?」
「反王政派、と……王政派……」
「水面下で、そのような事が……」
リスティアナの言葉に、顔色を悪くして二人が小さく呟く。
「──我々、高位貴族と呼ばれる家門は……独自の諜報部隊を抱えております。情報はとても重要で有効な切り札ですわ。学園内とは言え、今後もし両派閥と縁のある者たちが情報を餌に、武器にして行動を起こしたら……? アイリーン嬢やティファ嬢のお家が損害を被る可能性だってあるのですわ……そこに、他国が絡んで来たら……?」
「太刀打ち出来ない状況に陥ってしまう可能性もあるわよね……?」
リスティアナの言葉に続いてコリーナも静かに言葉を続ける。
アイリーンのハーディング伯爵家は、伯爵と言う爵位を得てはいるが伯爵家としての歴史はまだ浅い。
その為、横の繋がりはまだ希薄で、この国にいる伯爵家の多くは諜報員を持っているが、アイリーンの家はまだ諜報員を得ていない。
リスティアナと、コリーナは「その事」を当然のように知っているのだ。
そして、アイリーンはその事を知っているリスティアナとコリーナに改めて自分は高位貴族である人間と友人関係である事に冷や汗をかいた。
恐らく、アイリーンの預かり知らぬ所で、この二人の家門の力によって今日までハーディング伯爵家も、ティファのハナム子爵家も何度も助けられているかもしれない。
リスティアナのメイブルム侯爵家も、コリーナのフィリモリス侯爵家も別段そのつもりが無くとも、結果として「そう」なっている可能性がある。
そうして、リスティアナは「その」自分の家門であるメイブルム侯爵家が立場が悪くなる可能性がある、とはっきりと言ったのだ。
絶大な力を誇る、メイブルム侯爵家の立場が、弱くなる。
そしてそれは両派閥や他国の介入によって引き起こされる可能性がある、と言う。
その考えに思い至ったのは、ティファも同じようで、アイリーンと同じく顔色を悪くさせている。
「──だから、申し訳ありませんが……"そう"なってしまった際はお二人共、私から距離を取った方がいいですわ」
眉を下げてそう言うリスティアナに、アイリーンとティファは頷くしか無かった。
同時刻。
ナタリア・マローは学園内の廊下を足早に進んでいた。
(今日は、朝から学園生の皆が優しく声を掛けてくれたり……そう! そうよ! リスティアナ嬢は酷いわね、って賛同してくれる人も居たわ!)
やはり、自分が感じていた通りリスティアナは怖い人なのだ。
ヴィルジールがナタリアを学園まで送り、引き返した後、教室内でリスティアナが今まで行ってきた事を優しい人達が教えてくれた。
(殿下をお慕いするあまり、殿下に近付く令嬢達を排除して来た、と聞いたわ……このままじゃあ、私も、お腹の子も排除されちゃう……っ)
ナタリアは、そっとお腹に手を当てると庇うようにして急ぎ足で目的の場所まで歩く。
(リスティアナ嬢と言う婚約者を知っていながら、殿下と体を重ねてしまった事は申し訳ないと思っているけど……でも、だって仕方ないわ。あの時、あの場所で確かに私達の気持ちは通じ合ったのだから……)
ナタリアはそして扉を開けると中へと入る。
(想い合う二人なのだから、仕方ない事よ……。それより、今は殿下との御子を大切にしなくちゃ……!)
ナタリアは、今朝からつきり、つきりと何処か覚えのある下腹部の痛みに悩まされていた。
お腹の子に何かあったのか、大丈夫か、と言う不安を抱いていたが──。
化粧室から出てきたナタリアは、真っ青な顔を自分の震える腕で覆った。
「嘘、でしょ……どうしよう……勘違……いえ、でも、駄目……隠さなきゃ──……っ」
ナタリアは瞳に一杯の涙を浮かべながら、つきつきと馴染みのある痛みに、唇を噛み締めて俯くと真っ青な顔色のまま、教室へと戻り始めた。
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