35 / 42
ゲストルームの扉の向こうで 4終
しおりを挟むアウディとホーエンスが部屋を出た後、レオンはミュラーに被せていた自分のコートをそっと外すと蹴破られた扉から部屋の中が見えない場所へと移動する為、ミュラーを抱き上げる。
「ミュラー、もうこの部屋には俺達しかいないから…声を出しても大丈夫だよ。俺しか聞いていない…」
「ぅ、や、です…っ」
レオンの言葉に、ミュラーはふるふると首を横に振ると拒否するようにレオンに答える。
小刻みに震えるミュラーの体をレオンは強く抱きしめると続けて言葉をかけた。
「…もし、俺がいる事で恥ずかしくて声を上げられないのであれば俺もこの部屋から出ていくから。無理してその熱を体内に宿し続ける方が辛いだろう」
「ゃ、レオン様…は居て…っ」
「…っ、俺も媚薬を盛られているんだ…解毒薬を飲んだとは言え、ミュラーに無体を働くかもしれないんだ、それでもいいの?」
「ん、んっ、」
ミュラーは懸命にレオンの耳元で声が上がってしまうのを抑えるようにこくこくと頷く。
レオンにだったら何をされてもいい。
あんな男に触れられるよりレオンにこうやって強く抱きしめられているだけで幸せな気持ちに満たされる。
ミュラーは熱でぼうっとする頭でレオンに言われた言葉にただ本能に従うように頷く。
普段であれば絶対に頷いたりしてはいけない場面であるが、思考が麻痺している今のミュラーには今まともな返答が出来ない。
媚薬に思考を麻痺させられて、衝動のまま本能のまま体を許すなど本来であればあってはいけない。普段の自分であれば絶対にこんな答えはしないのに。
けれど、もうミュラーは限界なのだ。
薬を飲まされてから大分時間が経っているにも関わらず解毒薬の効果が未だ現れていない。
体内を駆け巡るかのように熱が膨れ上がり、ぜいぜいと荒く吐息を零す。早く熱を解放したい。早く楽になりたい。
ふわ、と優しくスプリングの効いた肌触りのいいシーツの感触からゲストルームのベッドへと体を下ろされた事が分かる。
「…っ、ミュラー、一先ず落ち着こう。大きく息を吸って、吐いてを繰り返すんだ」
「ん、…っ」
焦ったように声音に焦燥の色を乗せてレオンがそう話しかけてくる。
そっと自分の体から離れて行くレオンの気配にミュラーは気付くと、離れないで、と懇願するようにレオンに強く抱き着いた。
ぎしり、とレオンの体が固まる。
ミュラーは固まってしまったレオンに衝動のまま抱き着いて自分の頬を擦り付ける。
鼻腔をくすぐるレオンの香りにほっと安心の息をつくと、ミュラーは一層抱きつく自分の腕に力を込めた。
ぐいぐいと強く抱きつくが、先程のようにレオンから抱き締め返してくれる腕の感触がいつまで経っても訪れない。
自分の体を抱きしめてくれるレオンの感触が欲しくて、ミュラーは熱に浮かされ潤んだ瞳でレオンを見上げた。
「レオン、様…レオン様も、座って下さい…」
「え?え、ああ、うん」
ミュラーからのお願いに、レオンは唖然とした表情のままミュラーに手を引かれベッドへ隣り合わせに腰掛けた。
その姿にミュラーは満足すると、再度レオンへと腕を伸ばして首筋に自分の両腕を絡ませるとぎゅう、っと抱き着いた。
「ひ…っ」
細く悲鳴のような情けない声がレオンから上がった気がするが、ミュラーは構わずにそのままレオンの膝上に乗り上げるとしっかりと抱きつく。
反射的にだろうか、レオンの両腕がするりとミュラーの背中に回り、すっぽりと抱きしめ返してくれる。
「は、ぁっ、」
ミュラーは安心感からレオンの耳元で甘い吐息を零すとすりすりとレオンの首筋に自分の頬を擦り付ける。
自然と自分の唇から吐息が零れ落ちてしまい、その度にレオンがびくり、と体を震わせている。
何かに耐えるように、レオンは唇を噛み締めていて噛み締めすぎた唇の端から薄らと血が滲んでしまっている。
次第にレオンの体もブルブルと震え始めていて、ミュラーは熱に浮かされた頭ではあるが、レオンの体調を心配した。
レオンもきっと自分のように辛い思いをしているのだ。それなのに、しっかりと自分の意識を保ちミュラーのように熱に浮かされていない。
これが大人の彼と子供の自分の差なのだろうか、とミュラーはしゅんと一瞬落ち込むが、少しずつ冷静に思考出来る時間が出来てきた事に、ミュラーはほっと安心した。
それでも、まだ体の熱は甘く疼くし、レオンにどうしようもなく触って欲しい。
その気持ちのままレオンの耳元で小さく喘ぎ声を上げながら、自分の体を押し付けてしまう。
(ああ、何てはしたない事をしているのかしら私…)
薄らと思考回路が戻ってきて、今の自分の状況にとてつもなく恥ずかしくなる。
けれど、力強く抱きしめてくれるレオンの腕の中に収まっているのが気持ちよくてもう少し、もう少しだけ、と目を閉じた。
きっと、今の状況をアウディやホーエンスが見たらレオンはとても同情されただろうし、ミュラーの父親に見られたらレオンは殴り飛ばされているかもしれない。
そんな少しだけ色の孕む2人の接触はレオンには拷問に等しい時間ではあったがもう暫くだけ続いた。
そんな2人の雰囲気を壊したのは、ミュラーの父親が部屋に乗り込んで来た事で呆気なく終わった。
アウディに言われて暫く部屋の外で待っていたが、一向に姿を表さないレオンとミュラーに痺れを切らしてアウディとホーエンスを振り切り、部屋に乗り込んできたのだ。
そこで、父親とアウディ、ホーエンスの目に飛び込んできたのはレオンの膝に乗りながらミュラーがぎゅうぎゅうとレオンに抱きついている姿で、レオン本人は唇を噛み締めて血を滲ませながら耐えるようにミュラーを強く抱きしめている姿であり、レオンの瞳は色々な物を我慢しているのだろう涙の膜が張っていて今にも零れ落ちそうな程だった。
次第に意識がハッキリとしてきたミュラーが顔を真っ赤にしてレオンの膝上から飛び退くと、レオンはそのままベットに仰向けに倒れてしまった。
混乱するミュラーに、レオンは優しく笑いかけると改めて今回の事態の説明も合わせて話すことが沢山ある為、明日ハドソン家へ伺うよ、と言ってくれたのであった。
300
あなたにおすすめの小説
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜
山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、
幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。
父に褒められたことは一度もなく、
婚約者には「君に愛情などない」と言われ、
社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。
——ある夜。
唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。
心が折れかけていたその時、
父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが
淡々と告げた。
「エルナ様、家を出ましょう。
あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」
突然の“駆け落ち”に見える提案。
だがその実態は——
『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。
期間は一年、互いに干渉しないこと』
はずだった。
しかし共に暮らし始めてすぐ、
レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。
「……触れていいですか」
「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」
「あなたを愛さないなど、できるはずがない」
彼の優しさは偽りか、それとも——。
一年後、契約の終わりが迫る頃、
エルナの前に姿を見せたのは
かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。
「戻ってきてくれ。
本当に愛していたのは……君だ」
愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります
せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。
読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。
「私は君を愛することはないだろう。
しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。
これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」
結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。
この人は何を言っているのかしら?
そんなことは言われなくても分かっている。
私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。
私も貴方を愛さない……
侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。
そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。
記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。
この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。
それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。
そんな私は初夜を迎えることになる。
その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……
よくある記憶喪失の話です。
誤字脱字、申し訳ありません。
ご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる