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しおりを挟むシェリナリアが外套を引っ張り出していると、自室の扉がノックされる音に、シェリナリアは振り向いた。
夕食の時間まではまだ早い。
一体、誰が何の目的で部屋に来たのだろうか。
シェリナリアは不審に思いながらも、「誰?」と扉に向かって問い掛けた。
「皇女様。私です、シアナ・ランバードです」
「──シアナ?入っていいわよ」
シアナが、何の用事で来たのだろうか。
そう疑問に思いながらも、シェリナリアは外套を自分の腕に抱えてゆっくりと背後の扉に向かって振り向く。
まだ、足の怪我の痛みは治まっていない。
(カイルに見られたら怒られそうだわ)
シェリナリアが苦笑しながらゆっくりとソファに向かう為、足を踏み出した所で「失礼します」とシアナが声を出し、扉を開けた。
扉を開けて姿を表したのは、シアナと。
「──あっ」
「皇女様……」
何故かシアナの後ろにはカイルも居て、シェリナリアが思わずしまった、と思い声を出すとシアナの後ろに居たカイルがシェリナリアが自ら歩いている事に眉を寄せて小さくシェリナリアを呼んだ。
「ランバード殿、先に失礼します」
「え、ああ。分かった……」
カイルは、シアナの後ろから体を動かすとシェリナリアの部屋へと先に入室する。
「──皇女様。動かれる際は私を呼んで下されば必要な物は手配致しますし、目的の場所までお連れ致します。完全にお怪我が治っておられない状態で普段通り動かれてしまわれたら悪化してしまいます……!」
「室内を、少し歩いただけよ?激しい痛みも感じなくなったのだし、今までみたいに常に側に居てくれなくてももう大丈夫よ……っ」
ずり、とシェリナリアが足首を庇いながら後ろへ後ずさろうとしたのを察知したカイルは素早くシェリナリアの元へ向かうと、今までのようにシェリナリアに一言「失礼致します」と声を掛けてから抱き上げる。
「ソファまでお連れすれば宜しいでしょうか?他に何かご入用の物は……?クローゼット内は流石に私は入れませんので、何か必要な物があればランバード殿に──」
「大丈夫……っ、必要無いわ、もう欲しい物は無いからソファに下ろして……!」
シアナは二人のやり取りを苦笑しながら見詰めつつ僅かに開いていた扉を閉じて、シェリナリアとカイルの居るソファへと向かって歩いて行った。
一体全体、二人して突然どうしたのだろうか。
今、この時間はまだ仕事中の筈だ。
シェリナリアの部屋前の護衛は、シアナの予定だった筈。
シェリナリアは困惑した顔で二人にどうしたのか、と尋ねた。
「──それで、二人は私に何か用事があってここに……?」
シェリナリアの言葉に、カイルとシアナは何とも言えない表情を浮かべながら互いに顔を見合わすと、シアナが躊躇いがちに唇を開いた。
「皇女様……それですが、その……。ドレスト国の護衛の者達が皇女様の周辺の護衛を申し出まして、ドレスト国から来た護衛の数が多く、我々帝国の護衛騎士達の配置場所も一部ドレスト国の護衛達に渡す程、その……人数が多くてですね」
シアナの言葉に、シェリナリアは驚き目を見開く。
その二人の様子を見た後、シアナの言葉の後を追うようにカイルが続けて唇を開いた。
「専属護衛の我々にも、護衛人数が増えたから充分休息時間を取ってくれ、と言われてしまい……」
「なあに?それでは、貴方達の仕事をドレスト国の騎士達が奪った、と言う事なの……?」
何と厚かましい事だろうか。
シェリナリアの事を、もう既にドレスト国の人間だとでも言うような物言いである。
シェリナリアは表情を引き締めると、カイルとシアナに向かって咎めるような声音を出す。
「──それで、貴方達は自分の職務を放棄してドレスト国の指示にあっさり従ったと言うの?私へ確認もせず?」
ぴり、と室内が緊張感に包まれる。
シェリナリアの言う事は最もだ。
ドレスト国内に入ったとは言え、何故帝国の騎士達の職務をドレスト国の騎士が奪うのか。
騎士としての階級は、専属護衛騎士であるカイルとシアナを除けば皆並列なのではないか。
帝国では、どんなに身分の高い家門の子息であろうと、騎士として入隊して来た以上、一番の後輩であり騎士の中での身分は一番下だ。
それは皇族でさえ当てはまる。
アレンバレスト帝国の皇族であっても、騎士として入隊したのであれば騎士の中では身分は一番下だ。
実際に、皇子達が騎士団に入隊した際は皇族と言う身分など関係無く、騎士の一人として騎士団の中で過ごしたのだ。
郷に入っては郷に従え、と言う事だ。
周囲の人間達は気まずいだろうが、時間が経てば慣れる。
そうして、皇子達は決まった年齢になると騎士団に入隊し、皇族と言う身分が無くなった、ただの"個"となり揉まれて戻ってくる。
帝国では、それが普通、常識として考えられていたがこの国では違うのかもしれない。
シェリナリアはふと、その考えに至るとカイルとシアナに向けて視線を戻し、唇を開いた。
「──貴方達に"命令"を出来る者が居るのね?」
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