「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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二章

18話

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「お話し中、失礼いたします」

 複数の女性たちの内、その中の一人が一歩前に踏み出して軽く腰を折った。

 そして、その女性はゆっくりと顔を上げると、恋焦がれるような視線で、ヴァンを見つめる。

「ハーツラビュル卿。一曲私と踊って下さいませんか?」
「──は、?」
「ああ、申し遅れました。私、リンドット家が長女、イブリーンと申します」

 にこり、と美しく笑みを浮かべたイブリーンは、ヴァンの傍にウェンディが居るというのに、その存在をまるで無視するかのようにヴァンにだけ話しかけている。

 そもそも、今日はウェンディの兄であるレックスの侯爵就任の記念パーティーだ。
 それなのに、血の繋がった妹であるウェンディにお祝いの言葉一つ口にしないイブリーンに、ヴァンは眉を顰めた。

 だが、ヴァンの身分でイブリーンを無視する事など、できやしない。
 イブリーンは、リンドット侯爵家の長女。
 リンドット侯爵家は、この国にある古くからある侯爵家の一つだ。
 伯爵家の、しかも三男のヴァンにはイブリーンの言葉を真正面から断る事は難しい。

 ──今までのヴァンであれば。

 だが、今のヴァンはウェンディの専属護衛騎士だ。
 この国では専属護衛騎士は、国民の憧れてあり、その地位も名誉もある程度保証されている。

 それだけ、専属護衛騎士になれる者も。
 そして、主になれる者も限られているから。

 誰もが簡単に専属護衛騎士になれる訳ではない。
 それに、子供の頃に専属契約を結ぶ事が普通なのだ。それなのに、大人になってから専属契約を結ぶ事など、稀。
 そんな珍しい事を達成させたウェンディとヴァン、二人には未だかつて無い程の注目が集まっていた。

 故に今、イブリーンがヴァンに声をかけ、周囲の人達の視線を集めている。

 専属護衛騎士として、ある程度の地位と名誉は保証されているとは言え、侯爵家の令嬢に失礼な態度は取れない。
 ヴァンは、やんわりとイブリーンを断る事に決めた。

「──リンドット嬢。お誘いは有難いですが、私はウェンディの物です。ウェンディの許可を取ってください」
「なっ、何ですって!? 私にこのような平民に話しかけろ、と仰るの!?」
「ウェンディが、平民だって……?」

 イブリーンの言葉に、ヴァンが低い声を零す。
 ヴァンが怒っている、と瞬時に察知したウェンディは、イブリーンを助けるために咄嗟に会話に割って入った。

「イ、イブリーン嬢……! ヴァンは──」
「平民が気安く私に話しかけないで下さる!?」
「きゃ……っ」

 ウェンディが突然会話に割り込んで来た事で、イブリーンは怒り心頭。
 持っていた扇子で、ウェンディの頬を打とうとした。

 突然の事に、ウェンディはそれを防ぐ事が出来なくて。
 このまま頬を打たれてしまう──。
 痛みに備え、ぎゅっと目を閉じた。

 ──バチン!

 と、肌を打つ大きな音が聞こえた。
 だが、痛みに備えて目を閉じたウェンディには、痛みは生じていない。

「──え、あ、あれ……?」

 不思議に思い、ウェンディが目を開けると──。

 自分の目の前に、見慣れた大きな背中があって。
 ウェンディが頬を打たれそうになった瞬間、ヴァンが瞬時に自分の体をウェンディとイブリーン。両者の間に割り込ませたのだ。

「ヴァン……! だ、大丈夫!?」

 ウェンディは顔を真っ青にしてヴァンに駆け寄る。
 ヴァンの頬は、イブリーンの扇子が当たり、真っ赤になっていた。
 しかも、扇子の金具が当たったのだろうか。
 ヴァンの頬から、真っ赤な血が一筋伝って床に落ちた。

「──あ、ち、ちがうの……わたくし……」

 イブリーンは、まさかヴァンを叩いてしまうとは思わず、真っ青になって扇子を胸の前で握りしめていた。

「ハーツラビュル卿を叩くつもりは、なくて……わたくしは、その平民に……っ」
「……リンドット嬢。私の大切なウェンディを、平民と罵らないでください。……俺の命より大切なウェンディを! 傷付けようとしないでください! 彼女に危害を加えようとするなら、俺は相手が侯爵家だろうと遠慮はしません!」

 ヴァンの怒りに触れたイブリーンは、真っ青になってぺたり、とその場に座り込んでしまった。
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