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しおりを挟むエリシャが退室し、残されたベルトルトの沈みようはそれはもう酷かった。
アイーシャがベルトルトに話し掛けても上の空。返事は生返事。挙句の果てにはアイーシャと過ごす時間は早々に切り上げ、帰宅する為に腰を上げてしまう。
だが、ベルトルトはそこでハッとしたように顔を上げると、初めてアイーシャとまともに視線を合わせ、唇を開いた。
「アイーシャ。君も来週から学園へと通い始めるだろうけれど……。君が妹君へ取っている態度を同じご令嬢方にしてはいけないよ。君達は義理とは言え、姉妹だからまだ許されているんだと思う。けれど、学友達は他の貴族の家の者達だ。妹君へ接するようにしては決していけない。……家同士の問題へと発展してしまう可能性があるからね」
「ちょ、ちょっとお待ちを……! ベルトルト様が義妹のエリシャから何をお聞きになっているかは分かりませんが、私は今まで一度だってエリシャに対して辛く当たった事などありませんわ……!」
アイーシャの言葉に、ベルトルトは悲しそうに瞳を細めると、「妹君の言った通りだ」と呟く。
「──妹君が、アイーシャならばきっとこう言うだろうと教えてくれたよ……。今までもそうだったように、きっとアイーシャはこう言う筈だ、って」
「──……」
「ふふ、びっくりするだろう? アイーシャの妹君は本当に姉である君を慕っているからアイーシャの言うであろう事が分かるみたいだ」
ベルトルトは僅かに頬を染め、エリシャの事を思い浮かべているのだろう。
ぼうっ、とエリシャに想いを馳せるような表情でエリシャが出て行った方向に視線を向けている。
(──……まるでエリシャを婚約者として慕っているような態度だわ……)
アイーシャは、ベルトルトからそっと視線を外して俯いた。
◇◆◇
アイーシャが学園へと入学する日。
届いた学園の制服に袖を通し、少しばかりどきどきと胸を弾ませて向かった子爵邸の玄関で、アイーシャは有り得ない光景を見てしまう。
「──えっ、何で……エリシャが……っ」
「あっ、お姉様! 私も学園に通う事になりましたの! これから毎日一緒に学園に行けますわ」
輝く笑顔の筈なのに、アイーシャにはエリシャが弱者をいたぶるようににんまりと口端を歪めて笑むように見えてしまい、アイーシャは手摺を掴んでいた自分の手のひらにぎゅう、と力を込めてしまう。
「エ、エリシャも……学園に……、?」
「アイーシャ。エリシャが学園に通うのは嫌なの? エリシャももう十五歳。充分に学園に通う資格は有しているわ」
「お、お義母様……。確かに、そうですが……」
アイーシャは、エリシャが学園に通う事になるのは来年だろうと勝手に思い込んでしまっていた。
だが、貴族学園は十五歳から十八歳までの貴族子息や令嬢が通う場所である。
昨今、十六歳から通い始める子息や令嬢が殆どである為、エリシャも来年から通い始めるのだろう、とアイーシャはすっかり思い込んでしまっていたが、エリシャが通おうと何ら問題は無い。
アイーシャが狼狽えている間に、ベルトルトがやって来たようで、玄関に居るエリシャの制服姿を見て「可愛らしいね」と褒めているのが視界に入る。
まさか、三人で仲良く学園まで馬車で向かうのだろうか、とアイーシャが考えていると無邪気にエリシャがアイーシャに向かって笑顔で話し掛けて来る。
「お姉様! さあ早く行きましょうっ!」
「──……、分かった、わ……」
今降ります、とアイーシャは小さく呟くと手摺を強く握り締めてから階段を降り、玄関ホールへと向かう。
相変わらず、ベルトルトはエリシャに優しい笑顔を向けていてアイーシャには目もくれない。
本当に、この三人で同じ馬車に乗り学園まで向かうのだろうか、とアイーシャは気持ちが沈んで来るのを感じた。
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