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しおりを挟むクォンツの言葉に、アイーシャは話してもいいものなのだろうか、と一瞬言葉に詰まる。
(だって……、あの家での出来事を話して知られてしまったら……状況を何も変えられない無力な人間だ、って知られてしまう……)
アイーシャが俯く寸前、クォンツはアイーシャの頬に自分の手を添えるとアイーシャと視線を合わせたまましっかりと見詰め、アイーシャに負担にならなりよう、不安にならないよう言葉を掛ける。
「アイーシャ嬢から話を聞いても、俺はアイーシャ嬢に対して態度を変えたりしねえ。学園の、友人として友人が困っていたり助けを求めていたならば友人として助けたいだけだ。……だから、何も不安になる事は無い。アイーシャ嬢はアイーシャ嬢だ」
「──っ、あり、がとうございます……」
アイーシャはクォンツの言葉に、何故自分が泣きそうになってしまっているか分からない。
けれど、クォンツの言葉がじんわりと自分の胸に染み渡り、ぽかぽかと暖かくなるような感覚がする。
胸が暖かくなるなんて、そんな事ある訳が無い、と思っていたのにアイーシャは自分の胸が他人からの優しさで満たされ、暖かく守られている事に更に涙を零しながらゆっくりと言葉を紡いだ。
途中途中、言葉に詰まりながらそれでもクォンツはアイーシャを焦らせたり急かしたりせずアイーシャが言葉を紡ぐのをただ黙って真剣な表情で聞いてくれた。
アイーシャの口から語られる内容は、悲惨で。
幼少期の頃からそのような扱いを受けていたのか、とクォンツは奥歯を噛み締めた。
(幼い頃に両親を亡くし……それで引き取られた相手がアレだ……。昔、何かで読んだ事があるが一種の防衛反応だろう。自分の精神を保つ為に感情を殺して生きて来たのか……)
甘えたい盛りの幼少期に、無条件で愛情を注いでくれる両親を失い、自分を引き取った人間に愛情を求めようとしたがそれは叶わず、あろう事か反対に自分の発言を感情を全て封殺されて来た。
(婚約者に愛情を求めようとした頃もあったようだが……)
その婚約者でさえもいつの間にか過去、周囲に居た友人達と同じように妹であるエリシャの元へと行ってしまった。
(自分の言葉を信じて貰えず、意見を否定されて来たのか……それでも良くぞここまで壊れずに生きてこれたモンだな)
あの子爵家への諦めだろうか。
婚約者への諦めだろうか。
きっと、アイーシャは子爵家の人間にも婚約者へも期待などしていない。
(それならば、俺が──……)
アイーシャからの長い長い幼少期からの説明が終わり、クォンツは話し疲れてしまっているアイーシャに苦笑してソファから立ち上がり、アイーシャの隣に座るとそのままアイーシャを抱き締めた。
「ク、クォンツ様……っ!?」
「よしよし、俺の妹も泣いた後はこうして抱き締めて頭を撫でてやると泣き止むんだ。アイーシャ嬢も泣き止んだか?」
「いっ、妹さんと一緒にしないでくださいっ、私はもう十六です……っ」
アイーシャが恥ずかしがってクォンツの腕の中で暴れるが、クォンツは笑い声を上げると暫くアイーシャを抱き締めたまま離れなかった。
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