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しおりを挟むアイーシャの涙が収まって来た頃合を見計らい、クォンツはアイーシャを抱き締めていた腕を解放すると、アイーシャは素早くクォンツから離れてしまう。
「くくっ、悪い悪い。アイーシャ嬢の泣き顔がどうも妹のシャーロットと被っちまってな……」
「も、もうっ」
ぶつぶつ、とクォンツに対してアイーシャが文句を言っているのを聞き、クォンツはそろそろいいか、と気持ちを切り替えるとアイーシャの隣に座ったまま「それで、だ」と切り出す。
「──今のアイーシャ嬢の話を聞いた限り、アイーシャ嬢の両親が築いた財産……本来ならば実子であるアイーシャ嬢が受け継ぐ物だな。それをアイーシャ嬢に無断であの家の者達は使用している。それも、正式な手続きを行い全て回収しよう。……後は、やはり妹の魔法だな……幼少期の頃から信用魔法を掛け続けられて居る両親は……ありゃもう駄目かもしれねえ。元々実子に甘い両親だ妹の発言を無条件で信じ込むだろう。だが、それでもやはり信用魔法の類いを発動しているならば罪は罪だな、早急に王城に召喚してもらうよう手を打つか」
すらすら、と今後の事を話すクォンツにアイーシャはただこくこくと頷く事しか出来ない。
子爵家の子供であるアイーシャには発言権も無いし、訴える事も出来やしない。
そもそも、どの機関にどのような事を訴えればいいのかすらも分からないのだ。
「リドルに連絡をしておこう。王太子殿下に王城での審査を捩じ込んで貰う……。後は、そうだな……あの子爵が十五年前から頻繁に隣国に行っていた理由を調べるか──」
「え……っ」
「どんな理由でどんな目的で、誰と会っていたのか……いや、相手が人かどうかも分からねえな……」
「お義父様が隣国に向かっていた事を、調べる必要があるのですか……?」
アイーシャのきょと、とした瞳にクォンツは「ああ」と言葉を返すと頬を指で掻きながらアイーシャに軽く説明をする。
「もしかしたら、っつう程度だ。……まだ詳しい事は説明出来ねえが……何も無ければそれでいい」
「……、? はい、分かりました……」
アイーシャは首を捻っているが、クォンツはまだ不確かな事をアイーシャに告げる事は出来ないと口を閉ざす。
もし、万が一自分の両親が事故死では無くて誰かに殺害されていたら。
しかも、それが父親の家族に手を掛けられていたら。
今のアイーシャはどうなるか分からない。
クォンツは後は無いか、と視線を彷徨わせた後、「ああそうだった」と唇を開く。
「アイーシャ嬢に確認しておきたいんだが……」
「はい、何でしょう?」
アイーシャはすんっ、と鼻を鳴らすと目尻を軽くハンカチで押さえた後クォンツに顔を向ける。
顔を向けた先のクォンツは、何処か緊張した面持ちで聞くのを躊躇うような、聞きたくないような、そんな神妙な面持ちで怖々とアイーシャに向かって問い掛けた。
「アイーシャ嬢の、婚約者……あの男との関係──婚約関係も精算しちまった方がいいと思うんだが……アイーシャ嬢はあの婚約者を好いているんだ、よな……?」
クォンツの言葉に、アイーシャは「婚約者」と小さく呟くと一拍遅れてベルトルトの事を思い出す。
そう言えば、ベルトルトはエリシャでは無く自分の婚約者だったのだ。
以前までは妹を優先するベルトルトに悲しい気持ちを抱いていたが、それももう見慣れた物になり、今では全く気にしなくなってしまっていたのだ。
アイーシャはクォンツの言葉にきっぱりと告げた。
「いいえ、ベルトルト様の事はお慕いしておりません」
「そ、そうなのか……?」
「──はい。元々、ベルトルト様との婚約は政略的な意味合いが大きいと聞かされておりました。……将来、結婚するならばお互い良い関係を築ければ、と思っていた時期もございますが……今はエリシャとの仲が良いみたいですし……エリシャとベルトルト様が婚約を結び直せば良いのに、と思ってました」
アイーシャのすっぱりとした態度と表情に、クォンツはほっと安堵したように息を付き、「ならば」とアイーシャに話し掛ける。
「それならば……妹が王城で審査を受ける時に婚約を解消しちまえば良い。……だが、婚約解消だと癪だな……相手有責の婚約破棄をしちまうのはどうだ? 妹にへらへら乗り換える奴、碌なもんじゃねえぞ?」
「た、確かにそうですね……。今は良いとして……当時は悩みましたし……ちょっぴり傷付きましたし……」
「そうだろ? 人を傷付けておいてへらへらしてるあいつが気に食わねえんだよ。婚約破棄された、と言う傷くらい負って貰わねえとな」
クォンツはにんまり、と口端を持ち上げると嬉々としてアイーシャとベルトルトの婚約破棄についても早急に受理されるよう、手を回す事を決めた。
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