78 / 169
78
しおりを挟むエリシャが眠っていると、にわかに地下牢に続く通路が騒がしくなり、睡眠を妨害されたエリシャは少々不機嫌になりつつむくり、とベッドに体を起こした。
(──なに、? せっかく、固いベッドでやっと眠れたって言うのにざわざわ騒がしくって……睡眠の妨害はして欲しくないのに……!)
むっとしながらエリシャが体を起こし、外の声にそっと耳をそばだてる。
(そう言えば……さっきの牢番さんはもう居なくなっちゃったのかしら……? また来るって言っていたけど……?)
こてり、と首を傾げつつ外の会話を聞いているとどうやら牢番が二人殺されていたらしい。
(──えぇっ!? それ、さっきの牢番の人じゃないでしょうね……? せっかく牢から出してくれるって言ってた人が死んじゃってたら、私がここから出られないじゃない……! それに、さっきの人はお父様もしっかりと治療してくれたのかしら……っ)
牢の鉄格子に耳を付けて外の会話を聞こうとエリシャは体をぴったりと鉄格子に張り付けたが、その声音はどんどんと遠ざかって行ってしまい、それ以上何を話しているのか分からなくなってしまった。
再び地下牢はしん、と静まり返り鉄格子にくっついていた体を離すとエリシャはトボトボとベッドへと歩いて戻って行く。
自分に付けられてしまった手枷のせいで動き辛いし、口封じの布で口元を覆われてしまっているので話す事も出来ず不便な生活だ。
(ご飯は固形の物じゃなくて流動食みたいなやつだし……もっと美味しい物を食べたいな……。デザートとかも出してくれればいいのに……)
静まり返ってしまい、人の気配が無くなってしまった地下牢は若干肌寒さまで感じる。
エリシャはぽすん、とベッドに横になると早く寝てしまおう、と瞳を閉じた。
「──……き、……きろ、」
意識が浮上して来るにつれ、男の声が聞こえて来てエリシャは眉を寄せるとくるり、と鉄格子に背を向けて再度眠りに入ろうとする。
だが、そんなエリシャの行動を咎めるような声が響いた。
「起きろ……! エリシャ・ルドラン……!」
「──っ、ぅっ」
ぴりっ、と何処か緊張を孕んだその声音にエリシャはぱちりと瞳を開くとがばりと体を起こした。
「……起きたな。聞きたい事がある……。肯定ならば頷き、否定や分からない質問には首を横に振るんだ」
(マーベリック様だ……!? 何で……っ、何でこんな汚い所に……!? もう出してくれるの!?)
昨日の牢番の男が生きていて、王太子であるマーベリックに直談判でもしてくれたのだろうか、とエリシャが瞳を輝かせるが、鉄格子の向こうに佇むマーベリックは寝ていないのだろうか。
疲労感が滲む表情でエリシャに冷たい視線を向けると硬い声音で言葉を発した。
「──昨夜、怪しい人物は見なかったか? 見慣れぬ人間がここに来た……などは?」
「……、?」
マーベリックの言葉に、エリシャはきょとんとした後に首を横に振る。
昨日、この地下牢にやって来たのはこの城の牢番だけで怪しい人物などでは無い。
エリシャの動きと、表情をじっくりと眺めていたマーベリックは「では」と言葉を続ける。
「──では、昨夜この地下牢に誰か来たか?」
「……、ぅ、」
エリシャはマーベリックの言葉にもふるふると首を横に振る。
(出してくれるって言葉を掛けてくれた牢番さんが、大人しくしてろって言ってた……。もしかしたら、喋っちゃいけない事なのかもしれないわ……)
ふるふると首を横に振ったエリシャに、マーベリックは瞳を細めると護衛に何か指示をして牢の奥へと行かせる。
(あの先には、確かお父様が入っている牢屋がある……何でそんな方向に人を?)
エリシャがそちらの方向に不思議そうに視線を向けていると、マーベリックがふう、と溜息を吐き出した。
「──昨日、誰かがここに侵入したのは間違いない。そうでなければ、床に血のついた足跡があるのは不自然だし、ケネブ・ルドランの怪我の手当の仕方が違う事にも説明が付かない……。眠っている間にでも侵入したのか……」
「……ぅ、」
マーベリックは地下牢に誰かが侵入した事を初めから知っていたのだろう。
それなのに、エリシャには鎌をかけるような質問をした。
何故そんな事をしたのか理解が出来ず、エリシャが首を傾げているとマーベリックは溜息を吐き出してからもう一人の護衛に何か声を掛けている。
「──この女に確認しても無駄だな。ケネブ・ルドランに聞いた方が早い。あれを呼んで来てくれ」
「かしこまりました」
エリシャから興味を無くして去っていくマーベリックと護衛に、エリシャは小さく呻きながら鉄格子に縋るがマーベリック達が地下牢を出て行くまで再びエリシャに話し掛ける事は無かった。
117
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました
鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」
王太子アントナン・ドームにそう告げられ、
公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。
彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任――
国が回るために必要なすべて。
だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。
隣国へ渡ったエミーは、
一人で背負わない仕組みを選び、
名前が残らない判断の在り方を築いていく。
一方、彼女を失った王都は混乱し、
やがて気づく――
必要だったのは彼女ではなく、
彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。
偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、
王太子アントナンは、
「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。
だが、もうエミーは戻らない。
これは、
捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。
溺愛で救われる物語でもない。
「いなくても回る世界」を完成させた女性と、
彼女を必要としなくなった国の、
静かで誇り高い別れの物語。
英雄が消えても、世界は続いていく――
アルファポリス女子読者向け
〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。
『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』
ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、
偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢
シャウ・エッセン。
「君はもう必要ない」
そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。
――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。
王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。
だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。
奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、
一人に負担を押し付けない仕組みへ――
それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。
元婚約者はようやく理解し、
偽ヒロインは役割を降り、
世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。
復讐も断罪もない。
あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。
これは、
選ばれなかった令嬢が、
誰の期待にも縛られず、
名もなき日々を生きることを選ぶ物語。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
婚約破棄されたので、戻らない選択をしました
ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた
貴族令嬢ミディア・バイエルン。
だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、
彼女は一方的に婚約を破棄される。
「戻る場所は、もうありませんわ」
そう告げて向かった先は、
王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。
権力も、評価も、比較もない土地で、
ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。
指示しない。
介入しない。
評価しない。
それでも、人は動き、街は回り、
日常は確かに続いていく。
一方、王都では――
彼女を失った王太子と王政が、
少しずつ立ち行かなくなっていき……?
派手な復讐も、涙の和解もない。
あるのは、「戻らない」という選択と、
終わらせない日常だけ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる