79 / 169
79
しおりを挟む◇◆◇
地下牢で牢番が二名命を落としてから二日。
エリシャ・ルドランとケネブ・ルドランに対して尋問を行ったが何も情報を得る事が出来ず、マーベリックは眉を寄せながら王城の正門までを馬車で向かっていた。
隣にはリドルも居り、いつものような貴族然とした煌びやかな服装では無く山中を調査するに相応しい品は良いが動きやすい服装を身にまとっている。
リドルと同じく、マーベリックも王族として最低限の煌びやかさを保った服装ではあるが、マーベリックも動きやすさ重視の装いで。山中での戦闘行為にも柔軟に対応出来るような服装である。
「……マーベリック。これからルドラン嬢が馬車に乗るんだから難しい顔は止めといた方がいいと思うけど?」
「──ん、? あ、ああ……。すまない、考え込んでいたな」
「まぁ……牢番が命を落としているから分かるけど……」
「ああ。あの牢番達は鋭利な刃物で一刀の元に命を落としていた……。抵抗の痕も無かったので相手は相当な手練だろうな。……こんな時にあの二人を王都に置いて出るのは不安だが……地下牢はしっかりと見張らせているから兵達を信頼して預けるしか無い」
「まあ、そうなるよな……。ルドラン嬢と合流するんだ、そのしかめっ面のまま居るなよ」
「……ん、あぁ……」
リドルにそう指摘され、マーベリックは眉間を揉む。
王城の居住区から正門まで、長い距離を馬車で走っていると正門付近にアイーシャの姿を見付ける。
手荷物を隣に居る女性使用人に持って貰いながら、談笑しているアイーシャの姿を見てマーベリックが表情を緩めた事にリドルが気付くと、見ていない振りをして直ぐに視線を窓の外に戻す。
数人の使用人と共に王城に登城したのだろう。
ルドラン子爵家の家紋が付いた馬車が少し離れた場所に待機しており、アイーシャがそれに乗ってやって来たのだろうと言う事が伺える。
ここまで着いて来てくれた使用人達が邸に帰宅する時に、乗って来た馬車を使わせるつもりなのだろう。
アイーシャと、使用人。そして護衛の者だろうか。その者達は王城の正門の隅の辺りに控え、門番も交えて談笑しているのが窺える。
使用人だろうが、護衛だろうが分け隔て無く対応しているアイーシャにマーベリックもリドルもアイーシャの人柄にほわり、と和む。
貴族の令嬢や子息は、邸の使用人や護衛に対してあのように和やかに対応する者は少ない。
「……アイーシャ・ルドラン嬢のご生母と、父君はきっとルドラン嬢のように柔らかな人柄だったのだろうな……」
ぽつり、と呟いたマーベリックの言葉にリドルも「確かに」と心の中で呟くと同意する。
きっと、両親もアイーシャのように柔らかな人柄で、他者に優しく朗らかな人柄だったのだろう。
マーベリックとリドルの乗る馬車がアイーシャの近くで停車すると、アイーシャも気付いたのだろう。
使用人達と談笑していたが直ぐに荷物を使用人から受け取り、馬車へと近付いて来る。
「──ルドラン嬢」
「王太子殿下! 本日は宜しくお願い致します!」
マーベリック自ら馬車を降り、アイーシャを出迎えた事に共に居た使用人や護衛達も驚いている。
門番もさっ、と姿勢を正しマーベリックに一礼するがマーベリックは軽く手を上げてそれに応えるとアイーシャが持つ手荷物をひょい、と受け取った。
「あっ、!」
「さあ、行こうかルドラン嬢」
「ありがとうございます……っ、宜しくお願い致します!」
ぺこぺこと頭を下げるアイーシャに、リドルは馬車の扉からひょこり、と顔を出すと手を振る。
リドルの姿に気付いたアイーシャも、リドルを見付けて嬉しそうに表情を綻ばせると頭を下げた。
アイーシャと合流し、馬車が走り出して少し。
王都から郊外に出る馬車道に出て、馬車の窓から見える景色に自然が多くなって来た頃、マーベリックはアイーシャに向かって今回の道程を話し始める。
拠点として、前回と同じくルドラン子爵の別邸を使用する事。
山中へは戦闘が得意な調査隊と共に入るが、調査隊には魔法攻撃が得意な部隊と魔法防御が得意な部隊とで二つの部隊に別れている事。
アイーシャ達はその二つの部隊の内、魔法攻撃が得意な部隊と主に行動を共にする事。
それらの説明を受け、アイーシャはこくりと頷いた。
「──分かりました。調査の邪魔をしないよう、努めます」
「そんなに気負わなくても大丈夫だ。ルドラン嬢には、幼少期に父君から聞いた魔力が豊富な土地の事をなるべく思い出して貰って……何か見覚えがある場所等があれば、直ぐに我々に伝えて欲しい」
「はい!」
こくり、と頷いたアイーシャは窓の外へと視線を移し、膝に置いた両手をぐぅっと握り締める。
(クォンツ様……どうかご無事だといいのだけど……)
馬車の速度は、以前よりも早く。
途中休憩を挟みつつも以前より一日早くルドラン子爵の別邸へと到着した。
128
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした
まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました
鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」
王太子アントナン・ドームにそう告げられ、
公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。
彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任――
国が回るために必要なすべて。
だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。
隣国へ渡ったエミーは、
一人で背負わない仕組みを選び、
名前が残らない判断の在り方を築いていく。
一方、彼女を失った王都は混乱し、
やがて気づく――
必要だったのは彼女ではなく、
彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。
偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、
王太子アントナンは、
「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。
だが、もうエミーは戻らない。
これは、
捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。
溺愛で救われる物語でもない。
「いなくても回る世界」を完成させた女性と、
彼女を必要としなくなった国の、
静かで誇り高い別れの物語。
英雄が消えても、世界は続いていく――
アルファポリス女子読者向け
〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。
『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』
ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、
偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢
シャウ・エッセン。
「君はもう必要ない」
そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。
――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。
王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。
だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。
奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、
一人に負担を押し付けない仕組みへ――
それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。
元婚約者はようやく理解し、
偽ヒロインは役割を降り、
世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。
復讐も断罪もない。
あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。
これは、
選ばれなかった令嬢が、
誰の期待にも縛られず、
名もなき日々を生きることを選ぶ物語。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる