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しおりを挟む鋭く、何処か緊張を孕んだ声が響き、アイーシャ達三人は瞬時に声の聞こえて来た方向へと振り向く。
「──魔物……、っ!?」
「ルドラン嬢、魔物から離れるように……」
「誰か……! ルドラン嬢を!」
「大丈夫ですっ、私も自分の身を最低限守れる程度の魔法でしたら……!」
アイーシャの悲鳴のように鋭く叫んだ声の後に、マーベリックが落ち着いた声音でアイーシャに告げ、リドルが近くに居た魔法防御が得意な部隊の中から数人に向かって声を掛ける。
アイーシャは自分の身よりもマーベリックやリドルの身を優先して守って欲しい為そう言葉を紡ぐがリドルに声を掛けられた魔法防御部隊の中から一人アイーシャに向かって駆けて来る。
「ルドラン嬢、魔物からなるべく距離を取りつつも孤立しないようにしてくれ」
「わ、分かりましたアーキワンデ卿」
マーベリックは既に腰の長剣を抜き、刀身に魔法を付加すると魔物が出た入口付近へと駆けて行っている。
その背を見つめながらアイーシャも瞬時に魔法が放てるように心構えをしつつ、マーベリックから遅れて魔物の元へと駆けて行く背中を見つめる。
「ルドラン嬢。攻撃魔法が得意な部隊と殿下アーキワンデ公爵家の子息がいらっしゃるので余程の事が無い限り大丈夫ですが、我々も魔法防御の部隊に合流しましょう。崖の近くは危険ですから」
「そ、そうですね。失礼しました、あちらに──」
部隊の隊員の言葉に頷き、アイーシャが促された場所へと向かおうとした時に、魔物の咆哮だろうか。
聞いた事も無いような耳を劈く不快な声が周囲に響き渡る。
「──なっ、」
咄嗟にアイーシャが耳を塞ぎ、魔物が居る方向へと視線を向けて、そして。
アイーシャの視界に入った魔物の異形さに瞳を見開いた。
「な、何ですか……あの、魔物……」
アイーシャは掠れる声で何とか小さくそう呟くと、隣で同じように唖然と魔物を見詰める隊員と同じくその場に立ち尽くす。
魔物、と言っても小型から中型の動物のような魔物の姿を想像していた。
犬や、狼。そう言った類の魔物を想像していたと言うのに今、アイーシャ達の目の前に居る魔物は今まで見た事も聞いた事も無いような姿をしていて。
歪な存在が確かにそこに居る恐怖に、アイーシャは握り締めていた自分の拳。指先が真っ白になっている事に気付かない。
「な……っ、あれは……っ」
魔物が、数人の魔法攻撃部隊の隊員の攻撃に怯み、傷を負ったのだろうか。痛々しい咆哮を上げている。
マーベリックやリドルも呆気に取られていたような様子だったが、直ぐに切り替えると長剣に付加した魔法を発動して魔物と戦闘に入っている。
だが、マーベリックやリドルの刀身はその魔物の硬い爪に弾かれ、受け止められ上手く攻め切れていない。
「あれ、は……」
「ルドラン嬢……! こちらに!」
アイーシャの手を取り、隊員が魔法防御の部隊が居る方向へと駆けて行く。
アイーシャは自分の腕を引かれながら、何故か魔物から目を逸らす事が出来ない。
不快な咆哮を上げる異様な、醜い姿。
その姿に恐れ、不安を感じている筈なのだが──。
「あれ、は……合成獣……?」
まるで、どこかの神話に出てくるような異質で異様な姿。
沢山の動物を混ぜこぜにしたような姿に恐怖心を抱くのと同時、アイーシャは何故か悲しみを抱いていた。
この山中で、あのような姿を見た事など無い。
神話に登場するような生物が生息している筈が無い。
アイーシャの父、ウィルバートが昔良く話して聞かせてくれた御伽噺で出てきた可哀想な合成獣。
その可哀想な合成獣は、自分勝手な欲望を持つ人間に作り出された生物だ。
幼い頃の好奇心で、アイーシャはウィルバートに聞いた事がある。
自分の国の創世神話でも、そのような生物が出てくるのか、と。
だが、アイーシャの質問にウィルバートは首を横に振ったのだ。
合成獣と言う生き物が自然発生する事は無い、と。
それならば、答えは一つだけだろう。
自分達の目の前で暴れるあの魔物はきっとこの場所で造られた存在だ──。
アイーシャは、何故か自然とそう感じてしまい、魔法攻撃に咆哮を上げ続ける合成獣を青い顔でじっと見詰めた。
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