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しおりを挟む翌朝。
太陽の眩しい光を感じて、アイーシャはころん、とベッドの上で寝返りを打ち、小さく呻きながら瞼を上げた。
「──もう、朝……?」
アイーシャは、小さく呟いた後にむくりと体を起こして隣のベッドに視線を向ける。
父はもう起きているだろうか、それともまだ眠っているだろうか、と考えながら向けた先のベッドにはそこに居る筈の父親、ウィルバートの姿は無く。
「お父様……っ!?」
アイーシャは小さく悲鳴を上げるとベッドから飛び降りてウィルバートが眠っていたであろうベッドに駆け寄り、シーツに手のひらを触れさせる。
シーツは冷たく、人の体温は残っていない。
「──っ、!」
アイーシャは真っ青になると、寝巻きの上に薄手の上着を羽織るだけで急いで天幕の入口へと向かう。
昨夜、確かに父親と再会したのだ。
夜遅くまでクォンツと、ウィルバートと、アイーシャの三人で話した。
クォンツを見送ってからも、確かにウィルバートと遅くまで会話をしていたと言うのに。
全てが夢幻だったのか。
家族恋しさに、自分が見せた願望だったのだろうか、とアイーシャは瞳に薄らと涙を張りながら天幕の入口から勢い良く外に飛び出した。
「──うわっ、アイーシャ嬢……っ!?」
「──っ、クォンツ様……っ、?」
外に出た途端、天幕の入口に立っていたクォンツにぶつかってしまったのだろう。
勢い良くクォンツの胸に突進してしまったようだ。
飛び出して来たアイーシャを難無く自分の胸で受け止めたクォンツは、視線を下げてアイーシャの姿を見て、ぎょっとした。
「──っ、!? ちょっ、中へっ!」
「へ、えっ、!」
がばっ、と周囲から隠すようにクォンツの両腕で真正面から抱き締められ、顔を真っ赤に染めたクォンツがアイーシャを再び天幕の中に入るように促す。
だが、アイーシャは姿を消してしまったウィルバートを探しに行きたいのだ。
天幕の中に戻っていては意味が無いし、そのような事を告げるクォンツの意図が分からない。
「お父様が居ないんですっ! 早く探しに行かなくては……っ」
「そんな格好で出歩くな……っ! ここには男が多いんだぞ! 刺激を与えるな! それに、ウィルバート卿ならさっき──」
わたわたと真っ赤になりながら言葉を紡ぐクォンツの言葉に被さるように、背後から恐ろしく低い声が響いた。
「私の娘に何をしている、クォンツ卿」
「──ひっ」
クォンツは、自分の視界に映った黒い粒子に情けない声を上げてしまった。
「アイーシャ。そんな格好で外に出るなんて自殺行為だ。外には下劣で、脳が下半身にある奴らが──」
「ウィルバート卿! 王太子殿下が呼んでました……!」
「……分かった、今向かおう……」
ウィルバートの言葉を遮るようにクォンツが声を上げると、じとりとした視線をウィルバートから向けられてクォンツはふるふると首を横に振った。
「何もしません」と言う意味を込めたクォンツの行動にウィルバートはようやっと安心したのか、アイーシャに向かって微笑む。
「驚かせてすまないな、アイーシャ。まだ起きないだろう、と思って外に顔を洗いに行ってたんだ。今の私は他の属性魔法が使用出来なくなっているから……。少しここを離れるが直ぐに戻ってくる。戻ったら朝食を取ろう」
「私こそ、お父様が居なくて取り乱してしまい……申し訳ございません。クォンツ様、みっともない格好で失礼致しました」
朝、ウィルバートの姿が無かったのは外に顔を洗いに向かっていたらしかった。
どうやら、ウィルバートは闇魔法を取得してから今まで発動出来ていた火や水の元素魔法を使用する事が出来なくなったようだ。
その為、外に居る隊員に水魔法の手助けを頼んだ。アイーシャも自分に頼んでくれれば、とウィルバートに伝えたが気持ちよさそうに眠っている娘を起こしたくなかったからな、と微笑みながら言われてしまえば何も言えない。
アイーシャとクォンツに見送られ、ウィルバートが天幕から出て行くと、居心地悪そうにそわそわとしているクォンツにアイーシャは視線を向けた。
寝巻き姿をクォンツに見られてしまった気恥ずかしさはあるが、アイーシャにはそれよりも気になる事があり、クォンツに向かって口を開いた。
「──クォンツ様、お父様の目元が……赤かったのです……寝不足、と言うより……何だか泣き腫らした後、みたいな……」
「……ウィルバート卿の目元が、?」
アイーシャの言葉に、クォンツは僅かに頬を染めたままではあるが真剣な表情をアイーシャに向けた。
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