【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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 アイーシャが動き回る度に高い位置で結い上げた髪の毛がぴょこぴょこと跳ね、その様を後ろから見ていたクォンツは自然と「可愛いな」と思ってしまう。
 クォンツがぼうっとアイーシャのその姿を眺めていると不意にアイーシャが振り向いた。

「クォンツ様、この保養所内……地下って調べたのでしょう、か……?」
「──地下、?」

 アイーシャの言葉にクォンツが表情を引き締めるとアイーシャの視線の先を確認するため、隣に並び立つ。
 アイーシャの隣に立ち、アイーシャが視線を向ける先には保存庫だろうか。
 保養所がまだ運営をされていた頃には食べ物や備品などを保管していたであろう、倉庫のような部分に繋がる階段がひっそりとそこに存在していた。

 そこでクォンツは階段をじぃっと見詰め、はっと瞳を見開くとアイーシャに向かって自分の唇に人差し指を立てるように当てて「静かに」と声を掛ける。

「見ろ、アイーシャ嬢……。足跡が残っている……新しい物では無いが……。この保養所が閉鎖してから、間違いなく出入りしていた奴がいるようだな」
「──っ、!」

 クォンツの指示通り、アイーシャは声を発してしまわないよう自分の口元を手で覆いながら、クォンツの示す場所に目を凝らす。
 階段には、クォンツが告げたようにいくつかの足跡があり、その靴底の跡から同一人物では無さそうだ。

「少なくとも二人以上……複数人がこの下に何らかの目的があって、地下に向かったんだろうな。……ただの旅人が立ち寄っただけなのか、賊のような輩が根城にしていたのかは分からねえが……」

 クォンツはそう話しながら腰に下げていた剣を右腕で抜き放ち、アイーシャを自分の背中に隠す。

「地下を確認してみるか……アイーシャ嬢には補助魔法を頼みたい、いいか?」
「──分かりました、下に到着したら直ぐに灯りを」
「ああ、頼む」

 なるべく足音を立てぬよう気を付けながら、二人は階段を降りて行き、一番下に降りる前にクォンツは風魔法を刀身に纏わせる。
 確か、剣と風魔法の相性はとても良い、とアイーシャは学園の教材で見た記憶がある。
 風魔法を刀身に纏わせる事で斬れ味が増し、術者の剣の腕にもよるが、硬い岩でも、太い幹でもすっぱりと簡単に両断出来てしまうらしい。
 その点、クォンツは学園に通いながら魔法剣士として魔物が発生した際には自ら魔物討伐に赴く事が多く、実戦経験も豊富だ。
 侯爵家の嫡男であるクォンツはそのように討伐に赴かなくても良い身分ではあるのだが、気質は彼の父親クラウディオにとても似ているのだろう。
 魔物が出たと知れば率先して討伐に赴き、魔物を屠る。
 国民や侯爵家の領地の領民が困っているのであれば率先して討伐に赴く。
 そんな彼は貴族としてはとても異端な部類だ。

 だが、アイーシャはそんなクォンツをとても好ましく思う。
 討伐隊を組むのでは無く、力があるのだから、と自ら討伐に赴き危険を排除する姿勢は領地の民を守る次期当主として好ましい。
 この人が治める領地で暮らしたい、と思える程の安心感を与えるだろう。

「アイーシャ嬢、中に入るぞ」
「──分かりました」

 ぽつり、と呟いたクォンツの言葉にアイーシャははっと意識を切り替えるとクォンツが扉を開けたと同時に倉庫内を照らすように火魔法で光源を作り、中を明るく照らした。



 緊張し、いつでも戦闘に対応出来るよう構えていたクォンツは息を長く吐き出すと、構えていた剣を下ろした。

「──人の気配は、ねえな……」

 クォンツの言葉通り、室内が照らされ中の様子が分かるようになると、様々な備品が壁際に高く積まれている様子が見て取れる。
 ある程度広さがあるようだが、見える範囲に自分達以外に人影も、魔物も居なさそうだ。
 そしてクォンツが口にした通り、気配も無い。
 完全にこの場所には生きた生物が居る事は無い事が分かり、アイーシャも緊張感から解放されるとほっと息を付いた。

「──だが、以前はやはり誰かがここに入り込んでいたみたいだな。……備品を物色している痕跡がある……非常食の保存されている箱も開封されているから……賊か、旅人か……?」
「誰かが、この場所で体を休めていたのでしょうか」
「いや……。まだこれだけだと分からねえが……根城にしていたのか、一時的に避難していたのか……何か決定的な痕跡があれば、な……」

 前を歩くクォンツに、アイーシャも付いて行く。
 壁に沿って積まれている備品類を物色するクォンツから視線を外し、アイーシャもキョロキョロ、と周囲を見回してそして。

 棚と棚の間にある小さなテーブルの上に、子爵領の別邸にある蔵書室で見た本と似た書物達が積まれているのを見て、小さく声を上げた。

「──あれっ、」
「何か見付けたか……!?」

 アイーシャの声に即座に反応し、クォンツがアイーシャを背に庇いながらアイーシャの視線の先を見やる。
 アイーシャの視線の先には、本達が積まれていて一先ず危険は無いか、と体から力を抜いたクォンツはアイーシャの腕を取りながらそのテーブルに近付いて行く。

 そのテーブルには、やはりアイーシャの見間違いでは無く、両親が過ごして居た蔵書室にあった本達が何故かこの場にあった。

「これ、は……」
「──ケネブ・ルドランが、邪教と繋がり……合成獣キメラを作る手助けをしてやがった、つー事が確定したな……」

 クォンツは、眉を顰め蔵書達をその手でなぞった。
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