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しおりを挟むクォンツがなぞったその蔵書の背表紙には「神話」「神話生物」「作り方」などなど、古語と言うほど昔の言葉では無いが、年代が百年から二百年程昔に良く使用されていたこの国の共通語で記載されていた。
アイーシャはその中から一冊を手に取り、ぱらぱらと中身を確認する。
クォンツは周囲に警戒を怠らず、アイーシャに倣い適当に一冊を手に取ると本の中に書かれている文章に目を落とした。
「お父様が昔、話して下さった内容と同じ事が書かれていますね」
「どっかの国の創世神話では合成獣がいたっつー内容だな。……この本にも書かれている」
「はい。お父様とお母様は多くの本を読まれていました。合成獣はやはり神話に登場する生物として記載されていますね」
「──どっかの研究者が合成獣について興味を持って調べているな。作り方なんぞも考察してやがる」
クォンツは新たに開いた本の中身を見て嫌そうに眉を顰めた。
「──こんな、眉唾モンみたいな事を……」
「どれですか?」
アイーシャはクォンツが開いている本を見ようと、クォンツに体を寄せてひょい、と覗き込む。
アイーシャにも見易いようにクォンツは本を下げてやると「生み出し方を考察している部分がある」と自分の指先でトン、とその部分を叩いた。
クォンツに示された場所にアイーシャも目をやり、合成獣の生み出し方について考察されている箇所に視線を落とし、記載されている文章を読む。
「……纏まりなく様々な事が記載されていて、これは……」
「ああ。考えが散らかっていて……資料として提出出来るような代物じゃねえな」
「──でも……、もし、もしですよ? 万が一、邪教の人達がこの書物を昔から研究していて、ありとあらゆる方法を試していたら……? 試して行く内に"有効"な研究結果が出て……それが増えていったら……?」
「眉唾モンではなくなるって事か」
アイーシャの言葉にクォンツは後頭部をがりがりとかくと溜息をついた。
「──何をしてでも、ケネブ・ルドランに邪教に関わる何かを吐かせねえと駄目だな」
◇◆◇
アイーシャとクォンツと別れたウィルバートは、転移魔法で隣国の山中にある自分の家に戻って来ると、家の中に入り必要な物を簡単に纏める。
「──助けてくれたあの人には申し訳無いが……。この家は消してしまった方が良いだろうな」
ウィルバートを助けてくれたのは、この家に住んでいた年配の男性だった。
昔は隣国の騎士をしていた、と言っていたが魔物討伐で怪我を負い、引退して人があまりやって来ない山中でひっそりと一人で暮らしていたらしい。
元騎士だったと言う事もあり、年老いた体でも山での生活について沢山の知恵や知識をウィルバートに授けてくれた。
この人に助けてもらっていなければ、恩人が亡くなった後、ウィルバートも数年間一人で暮らせなかっただろう。
ウィルバートは家の中から最低限、荷物を運び出すと家から少しばかり離れた場所で立ち止まり家全体を視界に収める。
「──ありがとうございました」
ぽつり、と呟くとウィルバートはその家に向かって自分の手のひらを向けて闇魔法を発動する。
ウィルバートには自分を待ってくれている人がいる。
帰る家も思い出した。
闇魔法の黒い粒子に覆われ、じわじわと姿が呑み込まれて行く姿を少しだけ感傷に浸りながら見やって、ウィルバートは次の場所へと転移した。
絶対に確認しておかねばならない事。
アイーシャの前では出来ない事をするためにウィルバートはその場所にやって来ていた。
「──イライア」
魔力が宿る不思議な丘。
花が咲き乱れ、小高い丘の頂上にイライアの墓標はある。
「あの日、僕は確かにイライアの亡骸をこの地に弔った……」
だが、それなのにあの保養所跡には何故かイライアが亡くなった日に着ていたドレスがあった。
「僕が埋めたんだ……見間違いなんてある筈が無い」
不規則に早鐘を打つ自分の心臓に手を当て、抑えながらウィルバートは震える足を何とか叱咤し墓標の前までやってくる。
そうしてウィルバートはその場にかくん、と両膝を着くと地面に向かって自分の両手を押し当てた。
──途端。
土がじわじわと消失して行き、ウィルバートはぐっと眉を寄せて唇を噛み締めた。
「ごめん……っ、ごめんイライア……っ」
故人の墓を暴くなど、許されざる行為だと言う事は分かっている。
だが、確かめねばならない。
あの合成獣を生み出すために犠牲になった人々の中に、イライアが含まれているのか。
殆ど確信している。
けれど、もしかしたら犠牲にはなっていないかもしれない、と言う希望が捨て切れない。
けれど。
「君が、犠牲になっていたら──。どんな手を使ってでも、報いは受けさせる……っ」
そうして、美しい花々が咲き誇る丘でウィルバートの悲しい慟哭が響いた。
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