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しおりを挟む「……エリシャ・ルドランを拷問専門の部隊に任せたのだが……いくら傷を負っても、痛めつけてもケネブ・ルドランの居場所は吐かない。もしかしたら本当に何も知らぬ人間なのかもしれん」
「拷問されても言わぬ、とは……演技をしているとするならば相当な人物……。ですが……」
マーベリックの言葉を聞いたウィルバートは、途中で言葉を切りちらりとリドルに視線を向ける。
すると、ウィルバートの視線を受けてリドルはふるふると首を横に振って答えて見せた。
「──いえ。エリシャ・ルドランは到底そのような人物ではありません。少ししか話した事はありませんが、自分の欲望に愚直で深く思考するようなタイプの人間ではありません。恐らく、本当に何も知らないのではないでしょうか」
「それならば、ケネブ・ルドランがほぼ一人でこのような事を計画し、実行したと言う事か」
ケネブに一体それ程、人道に反した事柄を、人の道を外した行動を取らせる動機は何なのだろうか、とマーベリックは考え込む。
あれ程、自身を突き動かす動機は何なのだろう。
ウィルバートから軽くケネブに恨まれていた、と言う事は聞いているが恨んでいたとは言え、これ程までの事を仕出かすだろうか、と考える。
「ああ、嫌だな……」
「殿下?」
「いや……、ただの私の独り言だと思って聞いてくれ。……これが、もし、もしだぞ? ケネブ・ルドランを隠れ蓑にして背後にもっと強大な何かが潜んでいたら、嫌だな、と……。ふと思ってしまっただけだ」
「……根拠の無い例え話はおやめ下さい。殿下の嫌な予感は当たるんですから」
「ああ、すまない。だから私の戯言だ」
マーベリックの言葉に心底嫌そうな表情を浮かべてリドルが零す。
その表情にマーベリックは苦笑して「すまない」と言葉を返すと、話を戻した。
「ならば、エリシャ・ルドランがただの愚かな者だとして……それならばケネブ・ルドランの居場所を知っている事はないだろうな。邪教の男もああなってしまった……あれに再び接触してくる教団の人間がいれば別だが……」
「あの脱獄の騒ぎから警備はより厳重になっておりますので、再び忍び込んで脱獄を手助けする事は難しいでしょう」
リドルの言葉にマーベリックは何とも言えない表示を浮かべて頭をかく。
「我々でケネブ・ルドランを見つけねば手は無い、か……」
小さく溜息を吐き出すマーベリックを見た後、ウィルバートは背後にいるアイーシャとクォンツにちらり、と視線を向ける。
クォンツに話しかけられ、何か言葉を返した後笑顔を浮かべているアイーシャの姿を見てウィルバートは瞳を細めた。
しっかりと今のアイーシャの姿を自分の目で見詰め、記憶に刻み込む。
(十年前に比べて、すっかり大人になったな……。僕とイライアがアイーシャを育てられなかった分……僕とイライアが傍に居てあげられなかった間、ケネブは……)
アイーシャを愛し、慈しみ、成長を見守っていた訳では無い。
ケネブ・ルドランは憎しみを抱いていた兄の最愛の伴侶と、愛娘を自分の手で不幸にしたかったのだろう。
恨んでいた人間の最愛を、自分の手で潰したかったのだろう。
(今の僕にはその気持ちが良く分かる……。そして、今の僕はそれを成し遂げる力を得てしまった)
ウィルバートはそっと自分の手のひらを見下ろす。
闇魔法は術者の力量でどんな魔法だって発動する事が出来る。
時間が経つたび、闇魔法を発動するたび、ウィルバートは理解した。
多少無理をすればどんな事だって成し遂げる事が出来る。
(──だからこそ、闇魔法の使い手は滅多に現れないのだろうな。……そして、僕の前の代は自ら命を絶った)
その気持ちも分かる、とウィルバートは自嘲する。
「ウィルバート殿?」
「──、ああ、すみません殿下」
マーベリックに話し掛けられたウィルバートはぱっと顔を上げると笑顔で返事を返した。
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