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しおりを挟むウィルバートの放った闇魔法は、かつてないほど黒い粒子を大量に放出させて合成獣を包み込む。
エリシャだった合成獣は粒子に包まれ、恐怖しているのだろうか。
感情、と言う物が合成獣にあるのかはクォンツ達には分からない。
だが、合成獣の瞳に恐れや恐怖と言った感情が垣間見えた気がして、クォンツはやるせなさに小さく舌打ちした。
合成獣が粒子に包まれ、最早攻撃などと言う行動が取れないだろう、と言う段階に後方に避難していたマーベリックがアイーシャを伴いクォンツ達の下にやって来た。
「あれは、もう動けないな?」
「……マーベリック。……ああ、恐らくはもう……」
「そうか」
マーベリックの言葉にクォンツは小さく答える。
するとマーベリックと共にやって来ていたアイーシャは、エリシャの変わり果てた姿を視界に入れるなり見ていられない、と言うようにそっと視線を逸らした。
「アイーシャ嬢、」
義妹の姿を見て、アイーシャはどんな感情を抱いているのだろうか。
アイーシャの表情は芳しく無い。
いくら、長年苦しめられていたとは言えこのような結果を望んでいた訳では無いだろう。
「──お気遣いなく……。私は大丈夫です」
「そうか」
眉を下げで何とか気丈にそれだけを返すアイーシャに、クォンツも眉を下げ、一言だけ返す。
「アイーシャ。無いとは思うが、あれの体液がそこかしこに飛んでいる。人体に害は無いだろうがあまり近付いてはいけないよ」
闇魔法で合成獣に止めを刺したウィルバートが足取り軽くアイーシャに近付き、返事を聞く前にアイーシャの手を取りその場から離れさす。
「お父様……エリシャは」
「アイーシャ、あれはもう姪のエリシャでは無い。邪教の薬によって魔物へと変貌してしまった、私達人間の敵だよ。エリシャ、と呼んではいけない」
「魔物……」
「ああ。可哀想だが、こうなってしまった以上はこうするしかなかった。……ですよね、殿下?」
ゆったりと優しげな口調でウィルバートはアイーシャに言い聞かせるように説明した後、マーベリックに話を振る。
突然話を振られたと言うのにマーベリックは落ち着いていて。
ウィルバートの言葉に静かに頷いた。
「──ケネブ・ルドランも捕らえた。エリシャ・ルドランは邪教が作った薬物で合成獣へと変貌、後に討伐された。……すべき事は全て終わった。……王都へ戻るぞ」
ほんの小さく溜息を吐き出したマーベリックは、アイーシャやクォンツ、リドル達の方に顔を向けてしっかりとそう言い放つ。
アイーシャはマーベリックの言葉を聞いて、本当に全て終わったのだ、と何とも言えない気持ちを抱く。
(──けれど、終わった、と言っても……叔父様やエリシャの件が一先ず終わったと言うだけ……)
アイーシャは馬車へ戻る途中のウィルバートをちらり、と見やる。
(十年前に、馬車の事故で命を落としてしまっていたと思われていたお父様はこれから、どうすればいいの……?)
現、ルドラン子爵であるケネブは犯罪を犯した為爵位は返上か、王家預かりとなるのかアイーシャには未だ分からない。
アイーシャ自身、まだ学生の身だ。爵位を継ぐ事も出来ない為、この先当主がいないルドラン子爵家がどうなってしまうのか。
(お父様が戻って来たとは言え、お父様が再びルドラン子爵家の当主となるのは……いくら何でも難しいわよね……)
王都に戻ったら今後の事についてマーベリックから話があるだろうか、と考えながらアイーシャはウィルバートに呼ばれ馬車へと乗り込んだ。
◇◆◇
王都までの道中、とても穏やかに時間が過ぎ、数日掛けて何事も無く到着した。
始めの頃はケネブを奪い返しに邪教の人間が何か仕掛けて来るかもしれない、と警戒していたがそれも無く帰還する。
「王家の馬車とは言え、長時間乗っていると体が辛いな」
馬車から降り立ったウィルバートが苦笑を浮かべながらそう告げ、もう一方の馬車から降りたアイーシャも苦笑いする。
「ええ、そうですねお父様。体を伸ばせてほっとしました」
「アイーシャも疲れただろう。殿下からお呼び出しが掛かるまでは家に戻って休んでいなさい」
自分の側にやって来たアイーシャの頭を撫でて、ウィルバートは目を細めながら言葉を掛ける。
するとアイーシャと同じ馬車に乗っていたクォンツが不思議そうにウィルバートに話し掛けた。
「アイーシャ嬢をルドラン子爵邸に……? あそこはもう使用人しかいないからユルドラーク侯爵邸に来たらどうですかね? 妹もいるし、呼び出しの間少しでも気が紛れるんじゃ……?」
「──そうか、そうだな……」
「え? でも、お父様はルドラン子爵邸に戻られるのでは……?」
クォンツは何故そんな事を言うのだろうか、と不思議に思ったアイーシャが疑問をそのまま口にすると、ウィルバートは「すまない」とアイーシャに告げる。
「アイーシャ。私は殿下から王城に滞在するように、と言われているんだ。……十年前から姿が変わっていない私が子爵邸に戻る事は出来ないんだ」
「──そんな……っ」
とても悲しそうに目を伏せて告げるウィルバートに、アイーシャは言葉を無くしてしまった。
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