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しおりを挟むだが、しゅんと肩を落としたアイーシャを元気付けようとしたのか、ウィルバートは比較的明るく次の言葉を紡いだ。
「──そうだ、アイーシャ……! イライアの墓標をこちらに移そうか。アイーシャも手を合わす時間が無かっただろう? それくらいの時間はある筈だ。イライアもきっと家に戻りたかった筈だからな」
「本当ですか!? とても嬉しいですっ!」
ウィルバートからの思ってもいなかった提案に、アイーシャは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「それくらいの時間はある、そうですよね殿下──?」
まるで希うようにマーベリックを見つめ言葉を紡ぐウィルバートに、マーベリックは小さく頷き口を開いた。
「ああ。それくらいの時間はある……。悔いの残さないようにな」
ぽつり、と呟いた最後の言葉は嬉しさを抑えきれずにクォンツやリドルと話をするアイーシャの耳には入らなかった。
◇◆◇
アイーシャの母、ウィルバートの妻であるイライアの墓標は馬車事故に巻き込まれ、川向うの隣国にある小高い丘にある。
魔力がとても豊富な場所らしく、一年中美しく咲き誇る花々に囲まれた場所だ。
どういった原理で花々が枯れないのかは分からないが、とても美しい場所に墓標がありアイーシャは記憶が無くとも妻と認識したイライアを丁寧に葬ってくれたウィルバートに感謝していた。
(お母様の身体がここには無くとも……始めはこうして綺麗な場所で眠っていたのね……)
王都へ戻って来たアイーシャ達はあれからマーベリックに許しを貰い、イライアの墓標を移動させる為に再び山中へと戻って来ていた。
「こうして、数人程度ならば私の闇魔法で転移する事が出来るから、アイーシャを連れてこられて良かったよ」
墓標の前で手を合わせ、祈りを終えたウィルバートがすくっ、と立ち上がりアイーシャに向かって歩いて来る。
風が吹くと花々がさわさわと揺れ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
空は澄んでいてとても綺麗で、その様を全身で感じていたアイーシャは閉じていた瞳をぱちり、と開けた。
「連れて来て下さりありがとうございます、お父様」
「約束したからね。遅くなってしまってすまないね」
ウィルバートは何処か辛そうに表情を曇らせ、アイーシャの頭を撫でる。
「ここも綺麗だけど、イライアも家に戻りたいだろうし、アイーシャもすぐ側にイライアが居た方がいいだろう?」
「はい。いつでもお母様の墓標にお参り出来ますし……。そうだ、お父様……! もしすぐにルドラン子爵邸に戻る事が出来なくても、お母様の下に沢山足を運んで下さいね? お母様のお好きだったお花を植えたり、お母様がお好きだった食べ物……、それに近くでお茶会をしても良いかもしれません。ご友人達とお茶会をするのがお好きだったので!」
自分の顔の前で手を合わせ、ぱあっと嬉しそうに瞳を輝かせるアイーシャにウィルバートは自分の視界が滲んで来る事を悟り、そっと顔を背けた。
「お父様?」
不自然な態度のウィルバートにアイーシャが心配そうに声を掛ける。
するとウィルバートはアイーシャから顔を背けたまま優しく頭を撫でた後、イライアの墓標に向かって手のひらを向けた。
「……そろそろ移動させようか。墓標をあの場所からルドラン子爵邸の庭の片隅に移動させよう」
「分かり、ました……」
アイーシャに顔を見られないよう、真っ直ぐ墓標を見つめるウィルバートの口元は戦慄き、瞳からは堪えきれなかった涙が一筋頬を伝って行った。
そうして、翌日。
イライアの墓標の移動をした為、前日はルドラン子爵邸に滞在していたアイーシャをクォンツが迎えに来る日。
「──お父様は一体どちらで過ごされたのかしら……?」
ルドラン子爵邸には既に多くの使用人が戻って来ていた。
以前、ウィルバートと顔を合わせた家令のディフォートと料理長のハドソンだけがいる訳では無い。
突然ウィルバートが子爵邸に戻って来てしまっては混乱を招く。その上、ケネブやエリザベート、エリシャの事もある。
先ずはゆっくりと順々に説明をした方が良い、と言う事になりアイーシャはその言葉にただ素直に頷いた。
「クォンツ様の所……? それとも、殿下の下に行かれたのかしら……、?」
何やら、王都に戻って来る間ウィルバートとマーベリックは難しい顔で長時間色々と話していたようだ。
その話の続きでもしているのだろうか、とアイーシャが考えていると使用人のルミアの声が扉の奥から聞こえて来て、アイーシャは返事をして扉を開けた。
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