冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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「なに……? 何故、城の人達が慌てているの……?」

 ソニアは部屋から廊下を覗き込んでいたのだが、何か大変な事が起きているのかもしれない、と悟り完全に部屋を出る。

 良く良く見てみれば、慌てている人間の中にはヒドゥリオン直下の部下もいて。

「やだ……っ、ヒドゥリオン様に何かあったのかしら?」

 そう考え、ソニアが駆け出そうとしたその瞬間に慌てた様子のヒドゥリオンの声が響く。
 大きな声を張り上げている様子から、ヒドゥリオンは大丈夫そうだと一旦安堵したソニアは、ならばヒドゥリオンがあれ程取り乱すと言う事は王妃であるクリスタに何か起きたのかもしれない、と考えた。

「──具合でも悪いのかしら?」

 具合が悪く、それがもし、万が一命に関わるような事であったら、と考えてソニアは口端を持ち上げてしまう。
 もしそんな事が起きれば、自分はこの大国の王妃にでもなれるのでは、と邪な考えが頭に過ぎる。

 だが、ソニアの考えはあっさりと否定される。

 廊下をバタバタと移動していた使用人を捕まえて、事情を問えば何やらクリスタが怪我をしたそうだ。
 怪我の具合は濁されたが、ヒドゥリオンの慌て様から大怪我でも負ってくれたのでは、とソニアは自分の運の良さに今度はにんまりと笑みを浮かべてしまう。

(最高のタイミングだわ……。もし、怪我の具合が良くなくって、立つ事もままならない状態だったら……建国祭に王妃は出る事が出来ない……!)

 自分が手を下すまでも無く、王妃が建国祭を欠席するかもしれないのだ。

(凄いわ……こんなに良い事が起きてしまって良いのかしら?)

 事情は分かった。
 それならば、自分は部屋に戻りヒドゥリオンがやって来た時に説得する方法を考えよう、とソニアはくるりと踵を返す。

 進んで来ていた廊下を戻り、自分の唇に人差し指を当てて考える。
 いくらヒドゥリオンが自分を寵愛してくれている、とは言え建国祭の時にソニア自身をパートナーとして隣に置きはしないだろう。
 このままではヒドゥリオンの隣は王妃不在と言う形で建国祭を迎えてしまう。

(何か……良い手を考えなきゃいけない……)




 ソニアが部屋に戻って、数時間後。
 憔悴し切ったヒドゥリオンがソニアの部屋にやって来た。

 ソニアはヒドゥリオンを励まし、クリスタを心配し涙を流し、祖国に伝わる貴重な薬草をヒドゥリオンに渡した。
 そして、一晩中時間を掛けてヒドゥリオンを説得する。

 貴重な薬草を自国を滅ぼした他国に渡した慈悲深さを。
 クリスタをただただ心配するまるで尊い聖女のような親愛を。
 それらを垣間見せ、ヒドゥリオンが後ろめたさを抱くように刺激して、少しずつ少しずつ考えを変えさせる。

 夜が明ける、と言う時分にはヒドゥリオンはソニアの言葉にこくり、と頷いていた。
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