冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 クリスタが意識を取り戻して二日目。
 ようやく、二日目の朝になってヒドゥリオンがクリスタの私室に様子を見にやって来た。

「──王妃……!? 目覚めていたのか!?」
「おはようございます、陛下」

 部屋に入って来るなり、上半身を起き上がらせヘッドボードに体を預けるクリスタ、そしてクリスタに治癒魔法をかけるギルフィード。ギルフィードの横に座るキシュートや侍女の姿を見て、ヒドゥリオンが驚きに目を見開いている。

 苛立ちを顕にしてズカズカと部屋に入って来たヒドゥリオンはクリスタの侍女を鋭い視線で睨み付けるが、侍女達は頭を下げているだけでヒドゥリオンの様子を視界に入れていない。
 次いでヒドゥリオンはクリスタの手を握るギルフィードを不快感を顕にして睨み付けた。

「王妃が目覚めたと言うのに、何故私に一切知らせて来ない……!? 王妃が目覚めたのであれば一番に私に知らせるべきだろう!?」
「私が止めました」

 一体誰がこのような職務怠慢を、と言うような態度のヒドゥリオンにクリスタは冷たく言い放つ。

「──なに?」
「私が、止めました。私が目覚めたのは建国祭当日です。陛下はタナの王女と建国祭に出席しておりましたので建国祭が全て終了してからで構わない、と侍女に告げたのです」
「そ、それは王妃……理由があってだな……」

 建国祭にソニアと出席した、とクリスタの口から伝えられた途端に、ヒドゥリオンはたじろぐ。
 バツが悪そうにクリスタから視線を逸らし、口篭るヒドゥリオンにクリスタは何の感情も抱かない。抱けなくなっていた。

 二人で残りの準備を終え、共に寄り添いソニアがまるで王妃になったかのように振る舞っていた、と報告が上がっている。
 今はヒドゥリオンの顔も、ソニアの話もしたくない。

 それをはっきり態度に出してクリスタはヒドゥリオンから視線を逸らす。
 話す間も変わらず治癒魔法をかけてくれているギルフィードの手を、無意識に縋るようにクリスタは握ってしまう。
 するとクリスタの行動に驚き、僅かに頬を染めるギルフィードと、不機嫌さを隠しもせず顔に出すヒドゥリオン。

「──王妃っ! 建国祭について、私達はしっかり話し合わねばならない……! 今夜時間を──!」
「いいえ、陛下」

 請うような態度のヒドゥリオンに、だがクリスタはきっぱりと提案を否定する。

「確かに、一度陛下とはお話しなければならないと思うのです。けれど、それは今ではありません。今夜は他国の来賓と会食の予定が入っておりますよね? 建国祭はまだ二日目です。あと四日間、陛下はお忙しい筈。ご自身のパートナーとご対応下さい」
「パートナー……。私のパートナーは王妃では無いのか……?」

 愕然とし、呟くヒドゥリオンにクリスタははっ、と乾いた笑い声を発する。

「陛下のパートナーは亡国の王女ソニア様です。私は建国祭に参加出来ません。……そうしたのは陛下です」
「違う……、違う。そんなつもりは無くて──っ、何故分からない……っ」
「……疲れました。休ませて頂いてもいいですか?」

 諦めたような表情のクリスタに、ヒドゥリオンは言葉を無くしてしまう。
 何か言わなければ、引き止めなければならないような焦燥感に駆られる。
 だが、どうすれば良いのか。混乱し、思考が纏まらないヒドゥリオンはただ力無く肩を落として「分かった」とだけ呟き、クリスタの部屋から出て行った。


◇◆◇

 時は少しだけ遡り、建国祭の前。
 クリスタが大怪我を追った時に遡る。

 ヒドゥリオンが大慌てで治癒魔法使いを呼んでいる時。
 部屋でぐすぐす、と泣いていたソニアは廊下から聞こえて来る慌ただしく人が動く気配にひょこり、と顔を覗かせた。
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