冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 もし本当にクリスタ本人の魔力が何らかの形でソニアに喰われているとするならば。
 喰われた魔力はもう二度と自分に戻らなくなってしまうのだろうか。

 元々、人の魔力量には限界値がある。
 魔力を増やす修行、のような物で微々たる値ではあるが魔力の限界値を上げる事は出来るのだが、この世に生まれ落ちた瞬間に魔力の限界値は決められているので劇的に魔力を増やす事は出来ない。
 そして魔法を放ち、消失した魔力は時間と共に回復するのだが魔法を放っていない状態である場合、失った魔力は無事本人に戻るのだろうか。

 その不安からクリスタは前のめりになりつつギルフィードの部下に向かって問うたが、部下にそれが分かるかどうかは分からない。
 その事を決定付けるかのように、部下は狼狽え、そして助けを求めるようにギルフィードに視線を向けている。

「お、王子殿下……」
「──……、クリスタ様」

 部下からの視線を受け、悲しそうに一度瞼を伏せたギルフィードの表情を見てクリスタは息を飲む。

 何故、そんな顔をするのか。
 何故、自分よりもギルフィードの方が苦しそうな顔をするのか。

 クリスタは嫌な予感にどくどく、と鼓動を速める心臓に無意識に手をやってしまう。

 問題は無い、と言ってくれればいいのに。
 いつものように明るい表情で「魔力は時期に回復する」と言ってくれればいいのに。

 それなのに、何故ギルフィードは今。魔力を喰われたクリスタよりも苦しそうな表情を浮かべているのだろうか。

「──っ、」

 ざり、と無意識に一歩後退してしまっていたのだろう。
 クリスタは自分の靴底が立てた音にハッとしてギルフィードに視線を戻す。

 ギルフィードはしっかりクリスタと目を合わせたまま、口を開いた。

「クリスタ様……。ここに居る部下は、人の魔力を視る事に長けた人間なのです……。そして、本国──クロデアシアでは魔法に関する研究を進める人間で……、魔法に対してとても深い知識を持っています」
「魔法、研究者……と言う事……?」

 掠れたクリスタの声に、ギルフィードは重々しく一つ頷きを返す。

「はい。そして、その部下がこのような態度で……言葉を躊躇うと言う事は……」
「……なに、はっきり言って……」
「ソニア妃に捕食された魔力分を戻す、と言う事は難しいと言う事かと……」

 ギルフィードの言葉に、クリスタは頭をガツン、と殴られたような衝撃を受ける。
 まるで靄掛かったかのように頭の中がふわふわとしてしまい、思考があちらこちらに霧散してしまう。

「そんな、馬鹿な……。だって、魔力を消費したら……自然に回復するじゃない……。だから、私の減ってしまった魔力も……」
「クリスタ様……。これは、魔法を放つ際に魔力を消費した場合とは違うのです……。消費では無く、魔力を奪われた……。奪われた魔力を取り戻さない限り、クリスタ様の体の中を巡る魔力の総量は戻らない……」

 あまりにも衝撃的な内容に、控えの間に居たナタニアも言葉を失い、顔色を悪くさせている。
 口元を自分の手で覆い、その表情には悲壮感が漂う。

 自分の足でしっかりと立っていたはずなのに、クリスタの足からはカクリと力が抜けてしまい、その場にぺたりと座り込んでしまった。
 クリスタに慌てて駆け寄ろうとしたギルフィードだが、腹の傷が痛むのだろう。苦痛に表情を歪め、その場にぴたりと足を止めてしまう。

 その様子を見て、クリスタは「ああそうだった」と思い出す。
 ギルフィードの体もぼろぼろな状態だったのだ。
 先程は自分の魔力が二度と戻らないかもしれない、と言う衝撃でギルフィードの怪我の事が頭から抜けてしまっていたのだが、今はギルフィードの治癒を優先させなければならない。

 そして、ギルフィードの部下は治癒魔法が使えると言う事を聞いていたのだ。

 クリスタは俯いてしまっていた顔をゆるゆると力無く上げ、ギルフィードの部下に顔を向けた。

「──、そこ、の……。ギルフィード王子が、怪我をしているの……。治癒魔法、を……」
「クリスタ様……、私の事は……」
「いいえ……。王族の体調に関して、外部に漏らしてはいけないわ。……もうそろそろ陛下の開会の挨拶が行われる……ギルフィード王子も、自分の控えの間に戻らないといけないわ……」

 クリスタの言葉にギルフィードは慌てて治癒を断ろうとしたが、怪我の事を外部に知られては──とりわけ、ソニアに気取られてしまっては確かに不味い。
 ギルフィードはぐっと言葉を飲み込み、クリスタの気遣いを有難く受け取る事にした。



 ギルフィードの側にやって来た部下の治癒魔法を受けながら、ギルフィードは自分の体から痛みが無くなって行くのを感じる。
 先程まで感じていた熱の高さも、血を失い過ぎて寒さを感じていた感覚も無くなり、思考がクリアになる。

 そしてそこで、ギルフィードはふと自分の国で最近研究されている魔法学を思い出した。

「──っ! これならば……!」

 突然声を出したギルフィードに、俯いていたクリスタも、クリスタの側に居たナタニアも、そしてギルフィードを治癒していた部下も驚き顔を上げる。

 皆からの視線を受けたギルフィードは、真っ直ぐクリスタを見詰め、どこか希望に満ちた晴れやかな表情を浮かべてクリスタに向かって口を開いた。
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