冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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◇◆◇

 午後の暖かく優しい日差しが差し込む中、クリスタは造り上げられた壇上に立っていた。

 隣にはヒドゥリオンが居て、狩猟大会の開会の言葉を口にしている。

 そんな中、クリスタは普段と変わらない微笑みを浮かべたまま、先程ギルフィードに告げられた言葉達が頭の中をぐるぐると巡っている。

 ──安心して欲しい、と言っていた。
 クロデアシアで近年発掘された魔晶石がとても強い力を持っているらしく、魔法の発動でごっそりと消費してしまった魔力も、その魔晶石を持っているだけで瞬く間に魔力が回復するらしい。
 だがそれは消費した魔力を回復させる事は出来る事は分かったが、奪われた魔力を回復出来るか否かは研究を進めなければ分からない。

(──けれど、魔晶石の発見は私たち魔法を使う人間にとってとても貴重な出来事だわ……。もしかしたら不可能とされる事まで可能となる可能性だって、ある……!)

 だが、魔晶石の発掘はクロデアシアの中で限られた人間しか知らない。
 王族や、ギルフィードの直属の部下であるあの侍女など、王族に近しい者。それに国の政治を司る限られた人間のみに知られているとても機密性の高い情報だ。
 それを、他国の人間であるクリスタが知ってしまい大丈夫なのか、と心配したがそれには笑って誤魔化されてしまった。

 クリスタが考え事をしている内に、ヒドゥリオンの開会の言葉が終わったのだろう。
 壇上から降りるために階段に向かうヒドゥリオンから訝しげに見られてしまい、クリスタは内心で慌てつつ、それを表情に出さないように何でもないように装い、ヒドゥリオンの後を追う。

「何をぼさっとしていた? 心ここに在らず、と言った様子だったが……。またあの王子と戯れでもしていたのか?」
「──何を仰っているのですか、貴方はいったい」

 ヒドゥリオンの言葉にクリスタも流石にむっとして言い返す。
 何をふざけた事を、と思いヒドゥリオンに視線を向けたクリスタはそこでヒドゥリオンは大真面目に言ったのだ、と言う事が分かり怒りよりも呆れた。

 ギルフィードがこの国にやって来て、その行動を監視でもさせていたのだろう。
 ヒドゥリオンの表情、そして態度。言葉。
 それらからギルフィードがクリスタの控えの間に暫くの間滞在していた事を知っているようだ。

「私が誰とどんな時間を過ごしていても陛下には関係無いのではないでしょうか? 何も疚しい事をしている訳でもございません。昔から親交のある他国の王族と歓談しているだけでしょう?」
「──良く言う。ご丁寧に人払いまでしたそうだな。疚しい事をするからこそ人払いをしたのではないのか。……みっともない事をして、王族としての品位を下げるのはやめろ」
「まさか。そのような事。そもそもそのような想像をする事自体が下世話ですし、それをまさか陛下自らの口から発されるとは思いませんでした」
「……っ、昔からそなたは本当に可愛くない……っ」
「──ふっ、可愛いなどと思われたく無いです。私は前王妃殿下のように凛々しく、強い心を持つ王妃を目指しておりますので」

 声のトーンを落とし、表面上はにこやかな表情を張り付けているため、まさか二人がこんな会話をしているとは思わないだろう。
 狩猟大会に集まった貴族達の目は、壇上を降りたヒドゥリオンやクリスタでは無く今度は変わりに壇上に上がったギルフィードに集中している。
 そのため、二人が険悪な雰囲気でそのような言葉を交わしているとは微塵も気付いていない。

 そしてその内、ギルフィードの柔らかな声が響き、短くはあるが自国の貴族達を鼓舞する言葉を発している。

 その様子を自然と目で追っていたクリスタの横顔を、ヒドゥリオンは面白く無さそうに見ていた。

 ギルフィードの挨拶が終わり、開会の魔法花火が派手に上がる。
 様々な色彩の花火が空に上がり、昼間だと言うのにくっきりと輝きとても美しい。
 その様子を見ていた二人の下に、ソニアが笑顔で近付いて来た。

「その、クリスタ様……」
「──ソニアっ」

 ソニアがクリスタに近付き、挨拶をしようと言葉を発したが、そんなソニアを守るようにヒドゥリオンはソニアを自分の背に隠す。
 その態度に、クリスタは不快に感じ眉をぴくり、と震えさせたが表情を変えぬまま、「何か用かしら?」とソニアに言葉を返す。

「あ、その……。こうした場でお会いするのがとても久しぶりですから……ご挨拶、を……」
「ソニア、挨拶など良いから自分の席に戻りなさい。……無理をしなくていい」

 健気にクリスタに挨拶をするソニア。
 傍から見ればそう見えるだろう。

(相変わらず上手いわね……)
「──ええ、そうね。言葉を交わすのは久しぶりだわ。……もう良いかしら、席に戻りたいのだけど」

 クリスタが冷たく言い放つが、何故かソニアが引き下がる様子は無い。
 もじもじとしつつ、クリスタを上目遣いで見詰めながら良く通る可愛らしい声で言葉を紡いだ。

「──その、とても綺麗な魔法花火を見て……思い出したのですが……。クリスタ様も魔力調整がとても素晴らしく、綺麗な造形魔法を得意としている、と以前ヒドゥリオン様から伺いました……。その……この子のためにも、何か美しい造形魔法で作られた物を頂きたいな、と考えていたのです……」
「──……っ!?」

 お腹に手を当て、ふわりと照れ臭そうに笑顔を浮かべるソニアに、クリスタは信じられない、と目を見開いた──。
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