冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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(私の魔力を奪い、私の今の状況がどうなっているか、分かっている筈なのにこんな事を言うの……!?)

 無害そうな顔をして、確実に自分を追い詰めようとしているソニアにぞくりと寒気を覚える。
 可愛らしく小首を傾げ、腹の子のためにお祝いを頂きたいのです、と言うような態度にクリスタはじり、と後退る。



 ソニアの願いは周りの者から見れば至極当然の願いのように見えるだろう。
 過去、このディザメイア王国でも複数の妃が居た。
 一人の国王に複数の妃が居るのは当然の事でもある。
 数多く、王族の血筋を残す事は必要で。
 王妃の子が跡継ぎとなる事が殆どではあるが、王妃の子の補佐を行うのが他の妃の子達でもある。
 それに、王女が生まれれば他国との繋がりをより強固とするために嫁がせる事も多い。

 現王のヒドゥリオンと、現王妃であるクリスタの間に未だ子が居ない事からここ数年はそう言った事が行われる事は無かったが、過去は何度も似たような事が行われていた。

 そして、クリスタが躊躇っているのが分かっている筈なのに何故躊躇うのか、ヒドゥリオンは不思議そうにしていて。

「ソニアがこう言っているのだ。子に祝いの造形魔法を見せてやっても良いだろう?」

 あっさりとこのような事を宣う。

「──っ、それ、は……そうですが……っ」

 だが、クリスタには今魔力が殆ど残っていないのだ。
 それを分かり、理解しながらそのような願いを口にするソニアにクリスタは悔しさに奥歯を噛み締める。
 王妃でありながら、この場で簡単な造形魔法の一つも発動出来なければ周囲に居る貴族達にどのような印象が植え付けられてしまうか。

(──ああ、そうか……。植え付けたい、のね……)

 魔法を発動する事が出来ない約立たずの王妃だ、ときっとソニアは周囲に知らしめたいのだろう。
 そして、約立たずの王妃の地位を──。


 ソニアはヒドゥリオンに肩を抱かれ、支えられながらゆるりと口元を笑みの形に歪め、何とも言い難い恐ろしい笑みを浮かべている。

 この場で、ソニアに魔力を奪われたと言っても証拠が無い。
 証拠はソニアの侍女に扮したギルフィードの部下だけであり、ソニアに喰われたクリスタの魔力を可視化する事は極めて難しい。
 どうやってこの状況を切り抜けようか、とクリスタが考えていると、ソニアを援護するかのようにバズワン伯爵がゆったりと進み出てきた。

「王妃殿下。この国に、国王陛下のお子様が初めて誕生するのです。これ程におめでたい事は近年無かったでしょう? ……お気持ちは察しますが……、ここは一つ王妃殿下の寛大なお心で祝いを贈っても良いのではないでしょうか?」
「──バズワン伯爵」

 バズワンの言葉に、集まっていたディザメイアの貴族達もそれもそうだ、と頷いている。
 大きな発言力のあるバズワン伯爵がそう口にした事で、益々クリスタに視線が集中して。
 誤魔化す事も出来ない、と覚悟を決めたクリスタはぎゅう、と一度拳を握り締めた。


 壇上から降りたギルフィードが助けに来てくれそうな気配を見せているが、この状況でギルフィードが来てしまってはあらぬ疑いを抱かれる。
 視線だけでその場にギルフィードを留まらせると、クリスタはヒドゥリオンとソニアに顔を向けて口を開いた。

「……申し訳無いけれど、ソニア妃の願いは聞けないわ。……贈りたくとも、今は造形魔法を贈る事が出来ないのよ」
「……? どう言う事だ、王妃」

 クリスタの言葉に、ヒドゥリオンは首を傾げて訝しげに言葉を返す。
 幼い頃から二人で過ごす事が多かったため、ヒドゥリオンはクリスタの魔法の腕がどれだけ素晴らしいかを知っている。
 だからこそ、簡単な造形魔法すら今は贈る事が出来ないと言ったクリスタの言葉が納得出来なかったのだろう。

 クリスタの返答を変な方向に曲解したヒドゥリオンはむっと不機嫌そうに表情を歪め、咎めるようにクリスタに向かって言葉を紡いだ。

「──まさか、自分よりも先に懐妊した事が腹ただしくてそのような事を言っているのではあるまいな? そのようなつまらない事で拒否しているのか?」
「そのようなつまらない事をする訳がございません、陛下。ただ、本当に……今は魔法を発動する事が出来ないのです」

 クリスタが「魔法を発動出来ない」と口にした瞬間、周囲が困惑する気配が伝わって来る。
 ざわざわ、と集まった貴族達が囁き合い戸惑いの声を上げている。

 疑惑の視線、蔑むような視線、嘲笑するような視線。
 そんな様々な視線に晒され、クリスタはソニアが本当に目的としていた事を悟り、「見事ね」と心の中で笑った。

 王妃としての地位は揺るがない、と思っていた。
 それなのに今では貴族達の関心はいつの間にかソニアに集まっていて、気付けばクリスタはこの国で孤立してしまっている状態だ。

 それでも、幼い頃から王妃としての教育を受け、ヒドゥリオンと過ごす時間も長く、この国のために二人で頑張って行こうと何度も言い合った。
 だから国民から背を向けられても、例えヒドゥリオンに他の妃が出来たとしてもクリスタの地位は、王妃としての自分の居場所だけは揺るがないだろうと慢心もあった。
 そう、油断をしてしまっていた。
 まさか、自分が王妃としての地位を剥奪される可能性があるなんて考えようも無かったから。


「魔法が、発動出来ないとでも言うのか──……?」

 だから、信じられないと言うように真っ青な顔でぽつりと呟くヒドゥリオンの瞳が揺れた事に、クリスタは視線を落とした。
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